その結果、半導体業界ではファウンドリー企業の重要性が一段と高まった。特に、TSMCは最先端から旧式の半導体までを総合的に生産する体制を確立した。それが、米半導体のAMD、NVIDIA、さらにはアップルなどからの生産委託を獲得し、半導体業界における設計・開発と生産の分離が加速した。

かつて世界を席巻したインテルも…

他方、1990年代から2000年代初めにかけて米マイクロソフトのシステムを支えるCPU(中央演算装置)メーカーとして世界を席巻した米インテルは変化への対応が遅れた。同社は設計・開発・生産までを自社で手掛ける“垂直統合”のビジネスモデルにこだわった。その分、インテルがTSMCと同程度のスピードでチップの回路線幅を細くする“微細化”への取り組みを進めることは難しかった。

2020年7月、インテルのボブ・スワンCEOは外部への生産委託を検討していると述べた。それを見た世界の投資家は、かつて隆盛を誇ったインテルが、垂直統合の体制が環境変化にうまく対応できていないとの見方を強めた。

米サンタクララにあるインテル本社
写真=iStock.com/maybefalse
※写真はイメージです

両社の株価推移を確認すると、2012年半ば以降、TSMCの株価上昇が鮮明だ。投資家は、世界の半導体産業の主導権がインテルから台湾のTSMCにシフトし始めたと考えている。ある意味では、世界の半導体業界における生殺与奪の権が、インテルからTSMCに移りつつあるように見える。

世界に負けない日本企業の「強み」

わが国にはTSMCのようなファウンドリー企業も、NVIDIAのような半導体企業も見当たらない。また苦戦しているとはいえ、インテルも挽回を目指している。

その一方で、わが国には、半導体関連の部材や製造装置などの分野で競争力を発揮している企業が多い。半導体関連の部材分野において、わが国企業は高純度のフッ化水素、フォトレジスト、シリコン、セラミックなどで世界的なシェアを持つ。わが国企業は原材料の段階から微細かつ高純度の製造技術の向上を追求することによって、海外の企業が模倣できない半導体関連部材を生み出した。大企業だけでなく、中堅企業も微細な素材分野での比較優位性を発揮している。

半導体の製造装置や工場の自動化に必要な工作機械分野でも、わが国は精緻なすり合わせの技術を磨くことで競争力を維持している。逆に言えば、各種部材や部品を組み合わせて生産されたメモリ半導体などは、分解することによって競合企業に模倣されやすい。