「お孫さんはね、ブラックリストに載ってるから就職できないよ」

美容師を目指していた雨宮さんは、高校卒業後に地元の美容室に就職。だが、激務と夜遅くまで練習する生活に疲れ、約半年で辞職。その後地元の企業に入り直し、祖母はとても喜んだが、人間関係で悩み、やはり半年ほどで辞めてしまう。

雨宮さんは、また別の会社の面接を受けたが、面接後、祖母がその会社に雨宮さんを入社させてもらえるよう、頼みに行っていた。ところが、その会社は、雨宮さんが直前まで勤めていた企業と取引があったため、雨宮さんの存在を知っており、頼みに行った祖母にこう言ったそうだ。

「お孫さんはね、地元企業のブラックリストに載っていますから、もう地元では就職できないでしょうね」

家の固定電話
写真=iStock.com/undefined undefined
※写真はイメージです

雨宮さんのためになんとか職を得ようと東奔西走した祖母は、人事部担当者の心ない発言に激怒して帰宅したという。

「(駆け落ちした)父が若い頃、職を転々として、祖母はとても心配したようです。息子だけでなく、孫まで職探しにこんなに苦労するなんて。そう思ったかもしれません。当時の若い自分を振り返ると、考えが甘く、覚悟が全く足りませんでした」

それからしばらくして、雨宮さんはパートとして働き始めた。

豹変する祖母「このろくでなし! 人間のクズ! 貧乏神!」と罵倒

ところが、雨宮さんが30歳手前になった頃、80歳を超えた祖母が急に怒りっぽくなってきた。「リモコン取って」と言われてすぐに取ってあげられない時など、いつも些細なことがきっかけで、「えらそうにしやがって!」と突然怒り出し、暴力を振るわれることもある。

「さまざまな暴言を浴びせられましたが、中でも、『仕事を変わってばかりいやがって! このろくでなし! 人間のクズ! 貧乏神!』と仕事のことを言われることが多かったので、怒りの根幹には私の転職に悩まされたことがあるんだろうなと思いました」

ただ、数時間~1日怒り狂っていても、翌日は何事もなかったかのように元の優しい祖母に戻っているため、雨宮さんは誰にも相談しなかった。

しかし2017年。36歳になった雨宮さんの腕がアザだらけになっていることに伯母が気付き、理由を聞かれる。しぶしぶ数年前から祖母に現れ始めた異変や暴力行為について話すと、一緒にいた伯母の娘が「介護認定を受けてみては?」と提案した。

当時祖母は、92歳。常に杖をついて歩いてはいたものの、食事もトイレも入浴も全部1人でできていたし、時々怒り狂う以外は、言うこともしっかりしていた。ただ、食事の際に食べ物が喉に詰まることが頻繁になり、食べてもすぐに戻してしまうことが多くなっていた。

認定調査の結果は、要介護2。

そして同年8月。雨宮さんが仕事で不在にしていた間に祖母が、「2階に動物がいっぱいいるみたい。怖いから来て」と、泣きながら伯母に電話をした。ひどく動揺した伯母は、雨宮さんに「入院させよう」と切り出す。しかし雨宮さんは、首を振った。

「私は最後まで家で介護するつもりでしたし、祖母も『入院はしたくない』と言っていたので、私は反対しました」

だが、伯母は雨宮さんや祖母の話になど、全く聞く耳を持たなかった。ある日、雨宮さんが仕事から帰ると伯母が来ていた。伯母は雨宮さんの顔を見るなり、「おばあちゃん、入院するって言ったで」と声をかけた。

「伯母が祖母を言いくるめたのだと思います。伯母はだいぶ前から『施設に入れたら?』と勧めて来るので、その度に『嫌だ』と言ってきました。伯母は、『施設に入れるには、入院させるのが一番手っ取り早いんや』と言って入院先を勝手に決めて来てしまいました」