実親とどちらが「親」としてふさわしいかという苦悩

「継母になることの難しさ」は海外の研究でも指摘されています。その背景には、男性よりも女性のほうが子育てに向いているとか、女性は子どもに愛情を注ぐ母性本能が備わっているはずだというような、女性だけに向けられる役割期待とそれを補強する規範(母性神話、三歳児神話)があるからだと考えられます。公的相談機関の窓口で言われたという、母親とは「自分の人生を犠牲にしてでも」子どもの面倒をみるものだというような発言は、端的に継母に向けられる性別にもとづく役割期待をあらわしています。

もちろん、継父に対して向けられる役割期待もあります。「父親」として経済的な役割を引き受けるだけでなく、生活習慣を身につけさせるため、厳しくしつける役割を期待されています。継父自身も、「親」としての義務感を強めて積極的にその役割を引き受けていくように見えます。継母も継父も、別居親という見えない相手と、どちらが「親」としてふさわしいのか、日々競い合わなくてはなりません。だからこそ、「親」であろうとする自分を否定されると、深く傷ついてしまうのではないでしょうか。

核家族から親ひとりが除かれ、継親が補うかたち

調査事例から見えてくるのは、初婚のような「ふたり親家庭」を再建しようとすると、継子と継親ともに大きな心理的葛藤を抱えてしまうということです。このように、いなくなった実親と入れ替わって、その代役として継親が「親」としての役割を引き受けていくやり方を「代替モデル/スクラップ&ビルド型」と呼んでいます。わかりやすくイメージしてもらうために図表にしてみました。

この図は、前の結婚で作られた、親と子からなる核家族世帯から親のひとりが除かれ、除かれた実親を継親が補うかたちで同様の核家族世帯を再建するイメージです。「代替モデル/スクラップ&ビルド型」では、離婚の前も後も、また再婚後も、同居している親と子どもで構成される世帯(家庭)に含まれるメンバーだけを「家族」とみなしています。世帯の内と外の間に家族の境界線が明確に引かれ、除かれた親のひとりはもともと存在していなかったかのようです。

日本では、離婚後に「ひとり親家庭」となった場合、その親の実家で子どもの祖父母と同居(または近居)するパターンが多いこともこの図に示されています。