迅速に助成金を届ける仕組みもできていない
本来、経済を止める一方で、人々の生活を守る術を考える必要があるのだが、結局、政府の動きは鈍いままだ。昨年4月には国民1人当たり10万円の特別定額給付金の支給を決めた。全員に一律とすることで短期間に支給できるという話だったが、実際は、支払いに膨大な手間と時間を要した。
行政のデジタル化が進んでいないことが原因とされ、菅首相は「デジタル庁の新設」を指示したが、実際にデジタル庁ができるのは早くて今年9月。データベースの整理やシステム構築などを考えれば、実際にシステムが稼働するのは3年から5年はかかる。つまり、昨年の教訓から学んでいれば、本当に支援が必要な人に迅速に助成金を届ける仕組みを真っ先に整備すべきなのに、一向にそれは整っていない。
米国は年末の12月21日に、総額9000億ドル(約90兆円)に及ぶ新型コロナ対策を盛り込んだ法案を可決した。そこには2度目となる現金給付も盛り込まれている。成人・未成人ともに1人当たり600ドルが支給される。ただし、今回は全員に給付するのではなく、2019会計年度の年収が7万5000ドル超の場合、原則100ドルを超過するごとに5ドルずつ減額され、年収9万9000ドル以上の成人には支給されない。
つまり、本当に困窮している人に支給する仕組みとしているのだ。失業保険についても、1週間当たり300ドルを追加で給付することを決めた。
冬の感染爆発は「想定内」だったはずだ
もしかしたら冬になれば感染爆発が起きるということは、菅内閣が発足した時から「想定内」だったはずだ。危機管理は最悪の事態を想定することが基本である。営業停止を求めることになれば、営業補償だけでなく、失業したり給与が激減する人が急増することも分かっていたはずだ。そのために、個人に助成金をどう届けるか、とりあえずの方法を構築しておく必要があった。
今回の新型コロナに伴う経済危機の特徴は、飲食業や宿泊業の現場で働く弱者を直撃していることだ。今回の緊急事態宣言による対策で事態はさらに深刻化する。1カ月の「緩い」対策の結果、感染者が減らなかった場合に時短措置が延長されるようなことになれば、現場での解雇や雇い止め、廃業、倒産が激増することになるだろう。そうした現場の弱者を救う日本のセーフティーネットがあまりにも貧弱であることが露呈することになりかねない。
1月7日の夜に会見した菅首相の言葉は、どこか他人事のようで、国民の心に響くものとは言えなかった。給与も賞与もほとんどカットされていない政治家や高級官僚には、現場でとたんの苦しみを味わっている弱者の気持ちは分からないのだろうか。過去から謙虚に学び、将来のリスクへの対策を講じる。危機を想定できない政府が国の存亡を危うくする。