上司と一戦を交える場合のポイントを、古川氏は次のように列挙する。

議論するのではなく、説得する。あくまでも礼儀正しく、やんわりと。同調者を集めて仲間を増やし、会話のメモを証拠に残すなどして、外堀を埋める。

「直接説得する前に、外堀を埋め始めた段階で上司が自らの誤りや至らないことに気づいたら、理想的な勝利です」

意見具申をする際、主語は「自分」ではなく「会社」に。「私は」と切り出したいところをぐっと堪え、「会社のためにはこのようにすべきです」と表現する。

「正しい方向へベクトルが向いているかどうか、ということ。自分の昇進や昇給だけを目的とすると、瞬間的にうまくいっても、長続きしない勝利になります」

能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示し

できるのにできないふりをし、必要なのに不必要と見せかける――。

「油断させて、相手が増長したり、自滅したりするように仕向けなさい、といっています。孫子は、いま強い者がずっと将来も強いままだとは考えていない側面がある。こちらから『私が負けました』という態度を見せれば、相手は油断して、絶対に緩みが出てくる。長い目で見れば浮沈もあるということです」(守屋氏)

守屋 淳●中国古典研究家

1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務を経て、現在、中国文学の翻訳・著述家として活躍。『孫子・戦略・クラウゼヴィッツ』『最強の孫子』『活かす論語』『孫子とビジネス戦略』『逃げる「孫子」』『中国古典の名言録(共著)』など著書多数。


古川裕倫●経営コンサルタント

1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、三井物産に入社し、23年間勤務。2000年、ホリプロに転じ、取締役執行役員に。07年、自身の会社・多久案を設立し、経営コンサルティングなどを手がける。『他社から引き抜かれる社員になれ!』『できる人はすぐ決める!』など著書多数。
(的野弘路、増田安寿=撮影)