孫子の教えで重要なのは「戦わずして勝つ」ことではない。「戦わずして負けない」ことだ――。上司と部下の問題に応用し、乱世に生き残る術を検証する。

それでも「やる気なし上司」が改心しなければ――。

上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む。
城を攻むるの法は已むを得ざるがためなり

最上の戦い方とは、事前に敵の意図を見破り、謀(はかりごと)を企ててそれを封じること。それに次ぐのは、敵の同盟関係を分断して孤立させること。第三に、戦火を交えること。そして、最低の策は、城攻めに打って出ること。城攻めは、やむをえず用いる最後の手段である――。

もはや厭(いと)うことなく、上司の上役や役員クラスにも進言する。遠慮はいらない。同盟関係を分断して、相手を孤立させることは、世界に轟く孫子が、最上の策に続く次善の策だとお墨付きを与えている。

それでもなお、開き直ったり、のらりくらりと空とぼけていたりするだけなら、いよいよ正面切って一戦を交えるほかはない。戦ってだめなら、城攻めも辞さない。言い換えれば、上司の仕事を奪ったり、引責を迫ったりすることである。

兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹ざるなり

短期決戦に成功例はあっても、長期戦に持ち込んで成功した例は知らない――。

「戦力が同じくらいの相手とガチンコで勝負したら、お互いに消耗するだけなので、まあ頭も使え――ということ。孫子は、多数のライバルがいるなかで、どうしたら自分の利益を得られるか、どうしたら生き残れるか、というのを考えた古典なんです。相手の戦うエネルギーを逸(そ)らせていけば、その矛先が自分以外の誰かに行く可能性もある。相手と自分以外の誰かが泥沼の戦いに陥れば、それを傍観していられる。漁夫の利を得られることにもなるというわけです」(守屋氏)

言い換えれば、「やる気なし上司」と戦うことに時間と労力を費やしている間に、ライバルの同僚が自分の仕事を横取りして優位に立つということもありえる。