ワクチン化されたmRNAは、RNAを破損する酵素などの物質が入り込まない専用のクリーンルーム化された製薬工場で作っているため安定性が高いと言われています。注意深く運ばれてくれば、臨床現場で通常使用ができそうです。

ガンや糖尿病の治療でも注目されるmRNA治療

今回、ワクチンで注目されたmRNA治療。ガンの治療でも注目されています。

ガン細胞は免疫システムから逃れて増殖します。免疫システムにブレーキをかける「免疫チェックポイント」をブロックする、免疫チェックポイント阻害薬が広く用いられるようになりました(注12)

まず人それぞれのガン細胞を採取して、遺伝子を解析します。ガン特有のタンパク質に合わせて、その人用のmRNAを設計することができます(注13)

免疫チェックポイントを薬剤で外しておいて、その「ガンワクチン」を投与します。すると免疫細胞の目をかいくぐれなくなったガン細胞を、ガン特有のタンパク質を認識する免疫システムが攻撃してくれます。

私たちの免疫システムが、ウイルスのように効率よくガンを排除してくれるわけです。もしこの作業が流れ作業になれば、体内にできてくるガンや細胞内の厄介なものを免疫システムに認識してもらうテーラーメイド医療が簡便にスピーディーに行えます(注14)

インスリンを作れなくなって糖尿病になった(I型糖尿病)患者さんの膵臓にインスリンを作り出す細胞を作り出す遺伝子治療も試されるようになりました。また、通常のII型糖尿病の患者さんに特徴的な遺伝子異常が見つかってきています(注15、注16)

発現が少ないタンパク質をmRNAで補っていけば、発症予防や治療ができるかもしれません。このように、疾患の遺伝子的な解析が進むのと並行して、遺伝子を用いた治療が進化しています。

mRNAワクチンは未来医療の入口になる

mRNAを用いた新型コロナウイルスワクチンは、人類がこれから広く用いていこうとしている遺伝子治療の入り口にある技術でした。大量生産され、多くの人に使われることになります。それは、人類が抗生物質を使えるようになり大量生産され世界中に普及したことと重なります。

がん治療や、心筋梗塞、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患、糖尿病など数多くの疾患の治療のためにmRNAを用いた研究が進んでいます。

また、位髙教授は面白い未来の可能性も教えてくださいました。「ダイレクト・リプログラミング」(direct reprogramming)という技術です(注17)。細胞内に発現するタンパク質をコントロールすることにより細胞の性質を変えるという技術です。位髙先生の総説がよくまとめられています(注18)