新型コロナのmRNAワクチンのメカニズム

遺伝子を治療に用いる時代がやってきているところでした。今回、このようなmRNAを用いた遺伝子治療が幕を切って始まりそうな時期に、コロナウイルスの世界的流行が一致しました。

新型コロナウイルスで用いられることになったmRNAワクチンは根本から違っています。ウイルスの大量増殖は行いません。遺伝子情報を用います。

RNAを選択し加工する

遺伝子とは、いわばタンパク質を作るための暗号です。ワクチンを作るためには、まずウイルスの遺伝子全体を調べて、ワクチンを作るための必要な遺伝子の一部分を選択します。

DNA
写真=iStock.com/Svisio
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次いで、その選択された部分の遺伝子情報を持つmRNAを設計し、mRNAが身体の中でウイルスの一部であるタンパク質を作るようにmRNAを人工合成します。mRNAから作られたタンパク質がワクチンとして働きやすいようにする技術も研究されています(注4、注5)

薬物送達システム(drug delivery system、DDS)

設計通りに作られたmRNAは専用の場所で大量生産されます。そのままでは、私たちの細胞内に入りにくいので細胞膜を通過する加工をします。

細胞膜を通過しやすい脂質ナノ粒子やポリマー粒子を用いることで、mRNAを私たちの細胞内に運ぶことができます。「mRNAだけでなく、どのように細胞内に運ぶかという方法や素材も重要で研究が進められている」(位髙教授)とのことです。

薬物送達システム(drug delivery system、DDS)と呼ばれています。

mRNAワクチンは筋肉注射、液性免疫と細胞性免疫を作る

mRNAワクチンは、従来型ワクチンでも行われる筋肉注射です。mRNAが運ばれる組織は主に筋肉になり、細胞内でウイルスタンパク質が作られ細胞内を移動し細胞外に分泌されます。自己と異なるタンパク質であるため免疫細胞が認識し、新型コロナウイルスへの抗体が作成されます。

「さらにmRNAワクチンが優れているのは、別経路を活性化して細胞性免疫も誘導する点」(同)とのことでした(注6)

安全性と生産性

従来型ワクチンとの違いは安全性と生産性の違いにもあります。位髙教授によると、

「安全性と生産性(safety and manufacturing)がmRNAの国際会議でのホットな話題」だったそうです。

位髙教授は「超低温に保たなくてはいけないのは主に輸送と保存についてだろう」と指摘しました。現場で筋肉注射できるように加工されたmRNAは、脂質ナノ粒子やポリマー粒子に守られていて裸の状態ではありません。そのため、「投与前に室温に戻しても一定時間は安定だろう」とのことです。mRNA治療について大切なお話を長時間伺えたことをここに深謝申し上げます。