ワクチンはたくさんの方に接種するので、mRNAを大量生産する技術が必要です。ペニシリンも発見されてから大量合成できるようになるまで長い道のりがありました(注9、注10)

新型コロナについてはファイザー社やモデルナ社がmRNAワクチンとして細胞内に運ぶ担体としてナノ脂質粒子を用いています。一方、アストラゼネカ社は人間の体内では増殖しないウイルス(ウイルスベクターと呼びます)を用いています。

ワクチンは多くの人に用います。小ロットを作るのとは違って大量に供給するための安全性と生産性(safety and manufacturing)が重要問題になります。

また、各製薬メーカーは得られた最新の遺伝子情報を用いて、いかに「mRNAが効率よく細胞内に副作用が少なく運ばれ」て「効果的に免疫を作るタンパク質を作りだせるか」ということにしのぎを削っていきます。

遺伝子工学の概念
写真=iStock.com/metamorworks
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mRNAワクチンは筋肉注射

mRNAワクチンは、人体に投与する前に解凍して室温に戻して筋肉注射します(注5)。私は、mRNAが免疫細胞に入って色々な免疫システムが誘導されるかもしれないと思っていましたが、主たるワクチンの到達先は筋肉細胞でした。

筋肉内に注射されたmRNAワクチンは薬物送達システムによって、細胞膜に取り込まれ速やかに筋肉細胞内に移動します。

DNAではないので、私たちの核に組み込まれることはありません。細胞の中の細胞質と呼ばれるところで、即座にウイルスタンパク質を合成し始めます(注11)。役割を終えるとmRNAは短時間で体内から消失します。

このウイルスタンパク質に対して、液性免疫と細胞性免疫の両者のシステムが発動しウイルスに対して抵抗力を得ることができます。これが、高い効果を生んでいると考えられます。

mRNAワクチンが有利な点

遺伝子情報が公開されていれば、感染力のあるウイルスそのものが無くてもワクチンを作ることができる点が大きな利点です。遺伝子変異が発表されれば、それに合わせて作り替えていくことができます。また、新規感染症にも迅速に対応できます。

投与されたmRNAはウイルスのタンパク質を作って役割を終えると短時間で壊されてしまうので、体内に残ることはありません。mRNAの寿命が短いことが安全性につながっています。

mRNAは壊れやすいので即座に冷凍保存され輸送されます。

私は、臨床で働いているので研究用の超低温冷凍庫が必要だったりクリーンルームではない通常の現場ですぐに壊れてしまったりするものだったりしたら困ると思っていました。生体細胞から採取したRNA実験の煩雑さを思いだしていたからです。