「排出量取引」の本格導入はいつか

直接的な財源にはなりませんが、炭素税と同じように化石燃料に価格を付けて、財源を手当てせずに排出量を削減するメカニズムとしてEU各国で導入されているのが「キャップ・アンド・トレード型」と呼ばれる「排出量取引制度」です。

この制度は、まず国の排出可能総量枠(キャップ)を定めて、それを大口の排出者へ細かく割り当てます。各排出者は割り当てられた排出枠に余剰分が出た場合(排出量が少なかった場合)、それを他者(排出量が超過してしまった排出者)と取引(トレード)することができる制度です。

期初に割り当てられる排出枠は無償ですから、排出枠の余剰分は利益となり、反対に超過分はコストとなります。また、排出枠の取引価格は市場で決まり、余剰分(売り)が少なく超過分(買い)が多ければ排出単価は高値となってしまいますので、排出量の削減に向けて経済的なインセンティブが働きやすい特徴があります。

世界での導入国はEU、スイス、アメリカの北東部の州やカリフォルニア州、韓国、中国などで、日本は国としては導入されていませんが、東京都と埼玉県が大規模事業所を対象に導入しています。この排出量取引制度も近い将来、国として導入が図られるものと思います。

「環境特別税」に国民の理解は得られるか

先に日本の「地球温暖化対策のための税」の税収が約2600億円と述べましたが、仮にこの税額を数倍程度に引き上げたところで、これから始める日本の大変革への財源を賄えるとは思えません。

おそらく、いま財務省をはじめ各省庁が必死になって知恵を絞り、ありとあらゆる財源を見直して、温暖化対策のための財源確保を行っていると思われますが、常識的に考えて、これまで何かの目的があって手当てされていたものを来年度からいきなりやめるとか、大幅に削減するとかということが容易でないことは明らかです。

そこで、東日本大震災による復興財源の確保を目的として所得税・住民税・法人税に上乗せするという形で徴収されている「復興特別税」のような、いわば「環境特別税」の新設も検討していかざるを得なくなると思います。

これまで政策の不十分さにかまけて「助走期間」を十分に取ってこなかった日本は、そのツケの返済をいま求められているのです。果たしていっそうの負担を強いられる国民の理解が得られるのかどうか、それが第二の課題となります。

「技術開発」だけに頼った目標達成は「不可能」

第三の課題は、「国民のマインドセット」です。

第一の「技術開発と政策的な後押し」、第二の「財源の確保」は、主に政府によるインフラ整備や民間企業による技術革新に焦点を当てた課題提起でした。しかし第一の課題で少し触れたように、「技術開発」だけに頼って「温室効果ガス実質ゼロ」を達成するのは困難であり、環境問題に50年間関わってきた者としての本音をいえば「不可能」だと思っています。