就職氷河期世代と大きく関わる「きょうだいリスク」

こうした状況に陥る問題は「きょうだいリスク」とも呼ばれている。2015年の『AERA』の特集を機に、翌年、社会学者の平山亮氏とノンフィクションライターの古川雅子氏による共著で書籍化された『きょうだいリスク 無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる?』で、きょうだいに関連した問題が注目された。家族である兄弟姉妹を「リスク」に位置付けることにせつなさを感じる部分もあるが、一方で、背景にある格差問題や社会が抱える課題の根深さを表しているといえよう。

きょうだいリスクは、就職氷河期世代と大きく関わっているといえる。同世代は非正規雇用や長期無業者が多いほか、ひきこもりが続く人も少なくない。そして、経済的理由から結婚をあきらめざるを得ない、親と同居しているといったケースが多いのも特徴だ。

男性の手に黒い財布
写真=iStock.com/Sviatlana Lazarenka
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就職氷河期世代当事者のきょうだいからすれば、親が介護を必要としたり、亡くなったりした際には、代わって親の介護にあたるだけでなく、同居する親に支えられることで生活が成り立っていたきょうだいの面倒もみる必要に迫られる可能性がある。きょうだいはほぼ同じ世代、すなわち、就職氷河期世代を支えるきょうだいもまた、就職氷河期世代である可能性は高い。

同世代のなかにも、正規雇用者として働いている人はそれなりにいる。しかしながら、正規雇用に就いているからといって、生活を送るうえで十分すぎる収入を得ているというわけでもない。自分の家族のことだけで精一杯というケースが多いのだ。そうした状況で、負担が急増すれば担いきれずに潰れてしまうことが十分考えられる。

「40歳の独身の妹の将来に不安が尽きない」

こうしたリスクが、就職氷河期世代の高齢化によって顕在化するのは先の話になるが、ここでは将来そうした事態につながりかねない、実際に不安や困難を抱える家族・きょうだいの現状をみてみよう。

「九州在住の42歳の女性は、親と同居している40歳の独身の妹の将来に不安が尽きない。妹は大学を卒業して以来、実家で年金暮らしの両親と同居しながら、契約社員として働いている。(中略)いまは両親ともに元気だが、介護が必要となれば、いずれは妹と同居をすることも選択肢に考えている。しかし、『自分の子どもたちに迷惑はかけたくない』という思いももちろんある。万が一の場合、女性が経済的に支えられるかは心もとない」(日経電子版、2019年9月1日、「自立難しいきょうだい『トリプルケア』どう避ける」)。家族を思う一方で、いまの家庭への心配を募らせる様子が伝わる。

就職氷河期を背景に、中高年の間でも懸念される「ひきこもり」が続くきょうだいの場合は、より不安は大きい。