保障内容等が「変わらないことは大きなリスク」
「若い時から一生涯の保障がある医療保険などに加入しておくと安心」とも言えません。契約内容が更新されないために、医療環境の変化などとともに、保障内容が劣化することもあるからです。
たとえば、厚生労働省の病院報告で「入院患者の平均在院日数(一般病床)」を確認すると、1999年では30.8日だったのが2019年では16日となっています。この20年ほどの間に、入院日数に連動している「入院給付金」の価値などは、ほぼ半減していると見られるのです。
開腹手術をしていた病気が投薬で治るようになり、「手術給付金」が出なくなっている例もあります。
1980年代の終わりに、入院時と死亡時の保障が手厚い「がん保険」に加入していた人が2000年代にがんに罹った時、通院治療だけで治ったため、給付金が全く支払われなかった事実もあるのです。
「一生涯の保障が安心」というのは願望にすぎず、保障内容等が「変わらないことは大きなリスク」だと痛感します。
保険料の3割超が経費等に消える現実
もとより、保険におけるお金の流れは、簡略化すると「保険料-保険会社の経費・収益=各種給付金」となります。加入者全体で見ると収支はマイナスになるのです。
開示情報が乏しく、マイナスの割合は推計する以外にありませんが、筆者は、いくつかの会社の決算情報などから、医療保険やがん保険の場合、30~50%程度と見ています。
複数の保険数理の専門家に確認しても「経費だけで30%前後、給付を高めに見込んでおくことで余るお金もたっぷりある」とのことです。つまり、7万円用意するのに10万円を超えるお金がかかるわけです。これほど「お金を失いやすい仕組み」を、一生涯にわたり利用するのは賢明ではないはずです。
私たちは、幸運なことに国民皆保険の国に暮らしています。健康保険には「高額療養費制度」があり、健康保険が適用される医療費の自己負担には上限があります。低収入の人や高齢者に手厚い制度でもあります。
「高齢になるほど、保険で安心したい」という気持ちが切実であるほど、先の専門家による「老後の医療費などを民間の保険で用意すると高くつく」という言葉を思い出す必要を感じます。