日本で抱いた危機感、ベトナムで見つけた商機

サンアスタリスクは2020年7月31日、東証マザーズに上場。オフィスのエントランスには「祝上場」の文字を引っ下げた「サンベアー」の姿も
撮影=西田香織
サンアスタリスクは2020年7月31日、東証マザーズに上場。オフィスのエントランスには「祝上場」の文字を引っ下げた「サンベアー」の姿も

転機は出向先の企業で案件を外注したことで実感した、日本のIT人材が圧倒的に不足している、という気づきだ。アジアを見わたすとベトナムに優秀なエンジニアがいることを知る。それで仕事をつくりベトナムを訪れると、現地のエンジニアの能力の高さを目の当たりにした。さらなるポテンシャルがあるとも感じ、2012年、29歳のときにサンアスタリスクの前身となるフランジアに創業メンバーとして参画する。

それ以来、同社は大企業やスタートアップにソフトウエア開発、コンサルティング、デザインの機能、さらにはIT人材までをワンストップで提供し、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの事業創造を伴走する「デジタル・クリエイティブスタジオ」として右肩上がりの成長を遂げてきた。

現在、子会社を含めた国内拠点に約200名、ベトナムをはじめとする東南アジアの6拠点に約1300名のエンジニアやクリエーターをかかえる。売上高は2019年12月期で45億円と前年比2倍以上の成長となる。

株式市場でも期待値は高い。今年7月31日に上場すると、公開価格700円に対して初日の終値は1509円。9月3日には4756円まで上伸した。乱高下を繰り返した後に、現在は3000円前後で推移する(11月19日時点)。

「DXとコロナって似ている」

同社がユニークなのは、コロナ禍で加速する企業のDXを「業務プロセスのデジタル化」と「事業のデジタル化」という2つの側面のほか、企業や事業のビジョン創造から組織カルチャーの醸成までを一手に行い、さらには日本のエンジニア不足を解決するために国内外の教育機関と提携しIT人材の育成まで引き受けていることだ。

「DXとコロナって似ている。誰もが知る国民的キーワードになったのに、本当は何なのかをちゃんと分かっている人が少ない。でも、コロナでいえばそれが広く知られることで感染対策にマスクをすることが当たり前になりましたよね。同じように、正しく理解されてなくてもキーワードが当たり前になることで、DXがあらゆる企業で進むなら僕はそれでいいと思っています」

日頃、オフィスではオープンスペースで仕事をする。社内の雰囲気はフラットで経営層と社員の距離はちかい
撮影=西田香織
日頃、オフィスではオープンスペースで仕事をする。社内の雰囲気はフラットで経営層と社員の距離はちかい

DXの正しい意味は何かと小林に聞くと、その定義は「何かをデジタル化するのではなく、テクノロジーが社会に実装されていくことで人々の生活が豊かになること」だという。日本企業では、手段であるDXが目的になるという逆転現象が往々にして起こる。こうした認識のズレがあるからこそ、同社がDXを導入する際にはビジョンの創造から関わることを大前提にしている。

「DXで最も重要なのは、企業の理念、あるいはミッション・ビジョンが今の時代にあっているかどうか。それらのアップデートが必要なのは、社会状況が変わっているなかで当然のことです。具体的な内容を掲げている企業ほど、それが100年先まで通用するのかを検証したほうがいい。僕たちも、お客さんから『アプリを作りたい』という依頼があっても、『何のために作るのか』を問いかけることから始まることも多いですね。それで、『じゃあ今は作るのをやめようか』となることもある」