床下で生活していた“元”住人

玄関から室内に入ると、死臭と食べ物の腐敗臭に加えて、糞尿の臭いに襲われました。便器からあふれた大便と、風呂場に垂れ流された小便。さらに奥の部屋には、飲み終えたペットボトル、ビールの空き缶、コンビニ弁当のトレーやおつまみの袋、そして、たくさんのマンガ雑誌や成人向け雑誌……。生活ゴミの山が、人の背丈ほどうず高く積まれていたのです。

空き家ですから、当然、水道も電気もガスも通っていません。そんな中、なんらかの仕事で賃金を得て、コンビニで酒や食べ物、雑誌などを買い、ろうそくを灯してここで何年間か暮らしていたのでしょう。

清掃作業を進めていく中で、意外な形跡も見つかりました。部屋の大量のゴミをおおむね片付けたあと、押し入れを開けてみると、その床面に大きな穴が空いていたのです。もしやと思い中を覗いてみると、床下一面にゴミが溜まっていました。

つまり故人は、それなりの期間を床下で生活をしていたのです。おそらく、最初は押し入れを入り口としてひっそりと床下で寝泊まりしていたのが、だんだん周囲に見つからないことがわかってきたので、床下から出て空き部屋のほうを住処として利用するようになったのでしょう。

床から1メートル以上積み上げられ、「地層」のようになったゴミの山。
撮影=高江洲敦
床から1メートル以上積み上げられ、「地層」のようになったゴミの山。

助けを求めるも玄関で息絶えた男性

ここで生活していた男性は、玄関で亡くなっていました。特殊清掃では玄関まわりが主な作業場所になることが多くあります。それは、突然の体の異変に恐怖を感じ、助けを求めるからなのですが、おそらくこの男性も同じだったのではないでしょうか。死後半年程度経ってから発見され、一部は白骨化していたそうです。身元がわかるようなものは何ひとつありませんでした。

生活に困っていたときにこの団地を見つけ、当初は怯えるように床下に出入りしていたものの、徐々に大胆に室内で暮らすようになり、最後には玄関先で行き倒れた。

名前もわからない故人の、そんな晩年の様子が思い浮かびました。