ITに疎い上司をばかにする「テクハラ」にも注意

このようなテレハラが出てくるのは、先に挙げたテレワークの問題点に関係している。

まず、在宅勤務によって部下の部屋などのプライバシーに関わるハラスメントが生じやすい。それは自宅といった私の部分が会社の仕事という公の部分に関わるからである。上司には公と私の区別意識が必要である。

井口博『パワハラ問題』(新潮新書)
井口博『パワハラ問題』(新潮新書)

もうひとつは部下との十分なコミュニケーションがとれないことに原因がある。

まず部下が職場にいないので、画面から離れるとその時間に部下がどのようにしているか様子がわからない。

例えば、今までであれば部下が机に向かって仕事をしているのを見ているのでよいが、テレワークだと部下が見えないので、その仕事が不十分だと思った上司は部下が家でさぼっていたのではないかと疑ってしまう。そうすると上司から「見えないところでさぼっていただろう」という言葉が出てきて、ずっと仕事をしていた部下に不快感を与えてしまうことになる。

それ以外にも、IT機器の扱いがうまくできない部下を業務からはずしたり、逆に部下がITにうとい上司をばかにするような言動をしたりするテクハラも起きるだろう。

親しみを込めた軽口のつもりでも……

では、このようなテレハラを起こさないようにするために経営者と管理職はどんなことに注意したらよいのだろうか。

要は前に挙げたことが起きないようにすることなのだが、第一に必要なことは、上司としては勤務という公的な部分だけに関わるという意識である。つまり、在宅でのテレワークでの私的な部分であるプライバシーに注意することである。

例えば「カーテンの模様がかわいいね」というのは、言った方からすると素敵とほめているのに、なぜハラスメントなのかと思うかもしれない。しかし自分の部屋はプライベートな空間であり、言われた方は自分の部屋を見られたという意識の方が強い。

「部屋が片付いていない」というのも、やはりプライベートについての指摘なので避けるべきである。管理職としては親しみをこめた軽口のつもりでも、言われた方にショックを与えることを十分に認識しておく必要がある。

次に必要なことは働き方についての理解である。テレワークという働き方では、上司が部下を信頼することが前提になる。その信頼がないと「見えないところでさぼっていただろう」というセリフが出てしまう。