専門外でも“トヨタ流”は生かせる
牛島は言った。
「結果的には達成しました。でも、私たちがやったことは具体的にはそれほど難しいことではないのです。
まず新しいラインをひとつ作りました。次に作業の平準化です。毎日、一定の数を作ることを徹底しました。ある日はたくさん作って、ある日は少ししか作らないといった状況を変えたわけです。また、その際、海外からの部品で手に入りにくいものが出てきて、そこがネックになっていました。それに関してはうちの調達に動いてもらって、手に入れることができました。
同時に、平準化のための勤怠管理というか……。毎日ちゃんと15台ずつ作りましょう。何かの都合で遅れたりしたら、その日に残業もやりましょうと提案して実行しました。むろん、それまでも残業はしていたのです。しかし、その日の朝、『今日は残業できますか?』と聞いてから初めて残業の生産計画を考えるといった具合でした。残業できないと言われたら、仕事は翌日に持ち越しになってしまうのです」
ムダをしている当事者が気づいていないという問題
「トヨタみたいに毎日30分ずつ残業してちゃんと決まった数を必ず作るためには、残業計画は前から決めておかなくてはならない。そして、突然、残業できなくなった人のためのリリーフ要員まで用意しておくことが必要です。こうした細部までの気配りを行って増産を達成しました」
ここにあるように、支援の場合に必要なことは、何が困っているのかを聞く。困っているところを改善する提案をする。了承してもらって改善作業に入る。支援した先が自らやる気にならなければ、いくらトヨタ生産方式を活用しても、結果は出ない。
3カ月で生産性を6倍上げると聞くと、「それは無理」と思ってしまうが、実はムダを省いて、平準化するだけで生産性は上がる。問題はムダをしている本人はそれをムダと思っていないことにある。ムダは他人から指摘してもらわなければなくならない。
※この連載は『トヨタの危機管理』(プレジデント社)として2020年12月21日に刊行予定です。