酒場の店主たちは「常連さんに助けられた」と話す

この潮流はコロナ騒動によって顕在化し、加速した。この半年あまりのあいだにあらためて思い知らされたのは、そこでしか会えない「人」、すなわち店主であり、従業員の存在の大きさである。

酒場の店主たちにこの半年間をふり返ってもらうと、かならずといっていいほど「常連さんに助けられた」という言葉が返ってくる。その常連客はなにをしに店に行ったかといえば、その店がなくなってほしくないからである。もっといえば、店主や従業員が心配であり、応援したいからである。

こうした親密な関係を築けるのは酒場の特権だ。同じ外食店でも滞在時間が短く、従業員との接点が少ないほかの業態、たとえばファミリーレストランやファストフード、食堂などでは、従業員と客の間に濃密な関係性は生まれにくい。

「やきとり大吉」がいまだに800店規模を維持できる理由

ただし同じ酒場でもチェーン居酒屋は、「人」の魅力を売りにすることが苦手である。チェーンの最大の利点は、どこの店に行っても同じクオリティの商品とサービスが同じ価格で提供されることによって得られる安心感であり、そこで働く従業員は主役になりにくいからだ。チェーン、あるいはチェーン的な酒場は、平時にはありがたい存在かもしれないが、今回のような非常時には見向きされなくなる。

筆者が勤める店も業態としては秀逸だと思うが、悲しいかな、外出や飲み会が制限された時期にわざわざ訪れようとする客は少なかった。チェーンの限界を身をもって感じた。

前段でわざわざ「チェーン的」と加えたのは、たとえ同じ看板を掲げていても地域に根差し、地元に愛される店づくりは可能であるからだ。地元密着型のチェーン居酒屋「やきとり大吉」がいまだに800店程度の店舗数をほこっているのがその証拠だ。反対に業態の優位性や商品の魅力だけで支持されている居酒屋チェーンは、早晩陰りが見えてくるだろう。業態は模倣され、商品は飽きられるからだ。

したがって大手から家族経営の店まで、すべての酒場の経営者は、はやりの業態や商品に飛びつくのはほどほどにして、末永く客に愛されることを第一に考えるべきだ。それが生き残りのためであり、転じて日本の酒場文化を豊かにすることにもなるのである。

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