大切なのは「事実」と「感情」を分けること

まず、倒産を経験した身として、世の中に一番伝えたいのは、「倒産しても人生は終わらない」ということです。私には妻と子どもがおり、なんとか食っていかなければなりません。家族のためには、倒れっぱなしではいられないのです。

現在、倒産から立ち直ったかと言われれば、立ち直ったとも言えるし、まだ立ち直ったわけではないとも言えます。たしかなのは、「倒産した経験」を脇にたずさえて生きていくしかない、ということです。

「倒産」の判断について具体的に言えば、まずは会社の財務状況を洗い出し、客観的に分析することが重要です。近くにそういった数字を見られる人がいれば一緒に見てもらい、弁護士と相談しながら、判断材料を洗い出していく必要があります。

この時は、「従業員やお客様のこと」「立ち上げた会社への想い」などの感情は、いったん忘れてください。私自身、これが非常に難しいことであるとは百も承知ですが、ここは本当に重要で、とにかく「事実」と「感情」を分けて考えなければいけません。

廃業することは最悪の選択肢ではない

私の場合は、次の図表が「倒産」を判断する大きな材料となりました。

コロナの影響が出始めた3月下旬〜4月上旬の間で、経営状況を可視化し、売り上げがそれぞれ昨年対比30%減、50%減、70%減のほか、丸々1カ月休業した場合の売り上げ0のケースも想定しました。

その計算では、12月には会社の現預金が400万円代になり、従業員のみんなの給与を支払えなくなることがわかりました。当然、取引先への支払いもできなくなります。

かなり厳しい現実が目の前にありました。またこの新型コロナウイルスという感染症の特徴は、飲食店にとって最悪です。

コロナ対策で席を間引くことは売り上げの減少に直結しますし、お客様が入れ替わるたびに入念に消毒しなければならないなど、作業も増えます。また、お客様へも入店前の消毒や場合によっては検温も呼びかけなければなりません。

誰も経験したことのない情勢では、政府の補償がどうなるかも不透明です。今になってワクチンの誕生が噂されてきていますが、当時、コロナの終息は全く見えない状態でした。その中で考えられる選択肢は2つでした。

① 会社を継続させるには、どうすれば良いのか。
② 継続できない場合はどのようにソフトランディングさせるか。

私は結果的に②を選択したわけですが、一番難しかったのは感情です。私の決断は早かったので、やはり「お店への愛情が希薄だからそんなあっさり撤退できたのだ」とか「飲食店経営への情熱が足りないから早々に逃げることができたのだ」などと言われました。

しかし、私ができる範囲で、近しい人たち、家族や従業員、周りの経営を支えてくれる仲間、取引先の方々に、少しでもダメージが行かないようにする最善の選択が、会社を清算することだったのです。

どう言われようと、それが私のできる選択でした。