最近、飛行機の機内トラブルが世界中で増えている。このとき、機長は乗客を強制的に降ろすことができる。なぜ機長にはこれだけの権限があるのか。定期輸送用操縦士資格をもつ弁護士の堀江純一さんは「背景には国際的に積み重ねられてきた安全対策の歴史がある。ベースになっているのは『東京条約』だ」という——。
航空機において、機長(左)の責任と権限は絶大だ(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Rathke
航空機において、機長(左)の責任と権限は絶大だ(※写真はイメージです)

国際的な取り決めが各国の航空法に反映される

フライトの安全のために必要だと判断すれば、乗客に指示を出し、従わない場合は身体を拘束したり、中途で着陸して強制的に降機させることもできる――。民間航空機の機長には、こうした絶大な権限が与えられています。どのような経緯で、これほどの権限が与えられるようになったのでしょうか。

機長の権限の法的根拠のベースとなっているのは、1963年9月14日に締結された、国際民間航空機関(ICAO)による「東京条約」(正式名称:航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約)です。

ICAOは民間航空機の安全な飛行のため、国連の一組織として1947年に発足した組織で、そのICAOが東京で開いた国際会議で作成されたために「東京条約」という通称がついています。

ICAOには現在は日本を含む193カ国、つまり世界のほとんどの国が加盟しており、各加盟国は自国が締結した条約について、その規定を自国の国内法に反映する義務を負っています。つまり、機長の権限についての規定はまずICAOの加盟国間で国際条約として合意され、それが各国の航空法、さらには各航空会社の運航規定(オペレーションズ・マニュアル)に反映されているというのが全体の構図です。