世界共通の「機長の権限」規定

では具体的に、日本の航空法ではどのような形で機長の権限が定められているのでしょう。該当する航空法第73条の中から、いくつか内容をみてみましょう。

第七十三条の四 機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第五項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。
2 (略
3 航空機内にある者は、機長の要請又は承認に基づき、機長が第一項の措置をとることに対し必要な援助を行うことができる。
4 (略
5 機長は、航空機内にある者が、安全阻害行為等のうち、乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為、便所において喫煙する行為、航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為その他の行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるものをしたときは、その者に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令をすることができる。

これらの規定は、先ほども述べたように事実上世界共通になっており、筆者が拠点を置くオーストラリアの航空法(Civil Aviation Regulations)でも、第309条で全く同様の権限が機長に与えられています。

60年代以降急激に拡大した航空輸送の規模

空の安全をめぐる制度は、航空輸送の発展とともに強化されてきました。東京条約が結ばれた1963年当時、今と比べれば民間機による旅客輸送の規模ははるかに小さなものでした。

しかしその後、ジェット旅客機の導入による定員の拡大と航空路の発展によって、利用者数は急速に増加していきます。とくに、60年代末から70年代にかけてワイドボディ機が登場すると、乗客一人あたりの輸送コストが低下して運賃が下がり、航空機の利用はぐっと身近なものになっていきました。