日本は「24時間化」への説明が不足している
なぜ公共交通の24時間化が定着しなかったのか。筆者は、説明不足が原因であると考える。筆者が調べた限り、その必要性を一般にわかりやすく説明した公式資料がなかったからだ。
必要性を伝えるヒントは、海外にある。たとえばロンドン交通公団(TfL)は、2016年8月から週末限定で「ナイトチューブ」と呼ばれる地下鉄の終夜運行を実施しており、その約2年前の2014年9月に、その必要性を説くリポート(全47ページ)を公表した。このリポートには、計画の実施概要が記されているだけでなく、「ナイトバス(終夜バス)の利用者数が2000年とくらべて170%に増えた」「1965人の雇用が創出される」「30年間以上で36億ポンドの経済効果が見込まれる」などと必要性や導入効果がきわめて具体的に記されている。
残念ながら日本では、終夜運行や終電繰り下げに関して、これほど具体的な内容を記した公式資料はない。批判を回避するために物事を曖昧にしたまま進めるのは、いかにも日本の「お役所的」なやり方だが、それでは実施する目的が伝わりにくい。
「終電繰り上げ」は理由がわかりやすい
もちろん、ロンドンのやり方が東京でもそのまま通用するわけではない。両都市では文化が異なるので、ロンドンのように導入効果を具体的に示す説明は、東京にはなじまない可能性がある。
もし導入効果を具体的に示さないとなると、国際競争力やナイトタイムエコノミーといった、一般にはわかりにくい抽象的な概念を説明しなければならない。それは一般の人々や交通事業者の理解と協力を得る上で大きなネックになる。
その点、JR東日本が終電繰り上げに踏み切った理由はわかりやすい。深夜の営業時間外に行う線路のメンテナンスの現場では、もともと深刻な人手不足に陥っていた。そこへコロナ禍がやってきて、深夜の鉄道利用者数が大幅に減少した。これを機に鉄道の営業時間を短縮することができれば、メンテナンスにかける時間が増え、少ない労働力で必要な作業を終わらせることができる。だから終電繰り上げに踏み切った。鉄道にくわしくない人でも理解しやすいシンプルな論理だ。
わかりやすいことは常に正しいとは限らない。ただ、メディアがこのわかりやすさに同調するような報道を繰り返したこともあり、終電繰り上げに賛同する声が多く聞かれるようになった。そもそも都市全体の将来よりも、鉄道における働き方改革のほうが、多くの人がイメージしやすくて理解しやすい。