こんな時だからこそ、続けることで見えた光
迷いながら続けるうちに、一つの光が見えてきた。Zoomを活用した受注会だ。
「これまでもECサイトはありましたが、フルオーダーだと自由度が高すぎて、やりとりが大変なので、ほとんど活用していませんでした。でもコロナ禍で一気にZoomが普及した。それでZoomの受注会を始めたんです。オーダーまでの流れは対面とほぼ変わりません。あらかじめ生地をネットで見ておいてもらい、細かいデザインはZoomを使って詰めていきます」
Zoomを活用し始めたところ、これまで受注会に来られなかった地方在住の人や、入院中の人、介護中の母のために洋服を作りたいという人からもオーダーが入るようになった。そこに星田さんもスタッフも、明るい兆しを感じたという。
「こういう緊急事態になると、『洋服のフルオーダーなんて言っていられない』と思ってしまいますが、こういうときだからこそ、自分の好きな服を選ぶことで元気になる人がいる。誰かをちゃんと幸せにできている限り、ビジネスをやり続けることが大切だと思えたし、やり続けたからこそZoomという新しいすべにも出会えたんだと思います」
「逆境は進化のチャンス」、リクルート時代に培われた思想が今回も生かされてよかった、と笑う。
“儲け”ではなく“幸せ度”を増やすビジネスに
どんなに状況が厳しくても、星田さんが前を向いて進めるのは、創業当初から掲げてきた大義があるからだ。
「コロナが落ち着いたら、全国津々浦々、さらには海外でも受注会をしたいという夢があります。『じゃあ、年商何億が目標ですか?』と聞かれたりしますが、そうじゃない。そもそも洋服のオーダーメイドは、手間がかかり、売り上げが上がるとそれだけコストもかかるので、規模の経済が働きにくにビジネスモデルです。儲けて事業を大きくしたいなら、このままのモデルだと難しいんです」
星田さんにとっては、会社を大きくすることが目的なのではないという。
「もちろん、会社存続の為に利益の追求は大切。でも、それだけでは足りません。私が追求したいのはお客様の“幸せ度”を増やしていくこと。自分にぴったりな洋服を着て歩くとハッピーですよね。布地やデザインを選ぶ時間も、できあがりを待つ時間もすごくぜいたくな気持ちになるし、笑顔にならない人はいません。そういう瞬間に、『いいビジネスだな』と思えます。そして、笑顔を作るビジネスをしている限り、会社は存続し、拡大していくのかなと。あらためて『私は“手触り感”のあるビジネスが好きなんだな』とも感じます」
だからこそ、全国展開や海外展開を目指している。もっと多くの人の“幸せ度”を増やしたいからだ。「こういうスタイルでやっているのは私たちしかないと思いますし、まだまだ国内でも海外でも、『1万円台で叶うフルオーダーメイド』と出会いたいと思っている方がいるでしょうから、もっと頑張らないと」