「事業は拡大しない」と決めて、子どもの受験に集中
プライベートでは子どもが4歳のときに、小学校受験準備のため、保育園から幼稚園に転園。それまで終日預かってもらっていたのが午後2時までになり、生活スタイルもがらりと変えることになった。
「優先順位を自分で決められるのが起業の良さ。『娘が小学校に入るまでは、事業は緩やかにしか拡大しない』と決め、早朝から午後2時まで仕事をするというスタイルに切り替えて、娘の試験準備を優先させました。小学校受験は親も一緒にできる最初で最後の試験。私も日常で大切なことをいっぱい学べ、娘と十分に向き合えた宝物のような時間になりました。この時期は、職場、幼稚園、塾をすべて自宅の近くにして、動きやすい環境をつくりました」
子どもが小さい頃は、女性がフレキシビリティのある働き方ができることの大切さを実感した。
「よく、妊娠してから起業したり、働き方を変えたりする人がいますが、それはちょっとしんどい。私の場合、子どもが小さくていちばん手のかかる時期には、既にある程度事業が軌道に乗って仕組み化されていたので、スタッフに頼める部分が増えていました。もしこれが、起業して間もなくて、すべて自分が動かなくてはならない時期に妊娠・出産となると、ストレスも不安も大きい。だから子どもを産む前に起業をし、まずは土壌をつくっておくのはおすすめです」
無事に受験をクリアし、子どもは小学校1年生に。さあ仕事を頑張るぞというときに新型コロナウイルス問題が起きた。
開けるべきか、閉めるべきか……
「この3月、4月、5月は、とにかくお客さんが来ない。初めての経験でした。『外出してはいけない、洋服は必要ない』となると、このビジネスモデルはこうなるんだと、初めて事業で苦境に陥りました」
悩んだのは、外出自粛期間中にお店を閉めるべきかどうかだった。サロンは広く、ゆとりのあるレイアウトで、大きな窓に囲まれており風もよく通る。また、洋服店は自粛対象業種にはなっていなかった。
「すごく迷いました。でも、そんななかにあって『気がめいっているからこそ新しい洋服を作りたい』『洋服を作ることを考えると元気になる』というお客様からの声もあって……。洋服を作ることは、単なるおしゃれではないんですね。そうやって私たちを必要としている人がいる限り、お店は開けておこう。そう決断しました」
スタッフのうち、在宅を希望する人には、自宅で洋服のお直しをしてもらったりするようにした。
「うちのスタッフのほとんどは洋裁ができる。手に職があるんです。コロナでお直しの需要が増えていますから、いざとなったらお直しで生き延びようかと腹はくくっていました」