「有名人」が宣伝すれば売れる時代は終わった

ここまでは、インフルエンサー側のリスクについて述べてきた。次に、依頼する法人側のデメリットを紹介しよう。

インフルエンサーの投稿で炎上してしまうのはもちろん大ごとだが……。それ以前に、「インフルエンサーへ依頼しても売れない」問題がある。数百万、時には数千万円を投じてインフルエンサーへPRを依頼しても、商品が売れないことはよくある。そして、「このお金があればテレビCMへ投じたのに……。しかし、若者はテレビを見ないから……」と、頭を抱える企画担当者が出る。

これは、依頼主である法人の責任だ。「インフルエンサーさえ活用すれば売れる」という神話を、信じてはならない。

かつて、芸能人がCMに登場すれば売れる時代があった。国民が総じてテレビを見ており、同じ芸能人に憧れ、同じものを持ちたがったからだ。

その価値観をインターネットへそのまま踏襲すれば「インフルエンサーはネットにおける芸能人であり、インフルエンサーが商品を勧めれば売れる」と考えるのもやむない。しかし、2020年は「誰もが総じて憧れる像」がいない時代だ。

先述のてんちむさんを例にとっても、彼女を神のようにあがめる人も、全く知らない人も同世代にいるだろう。そして、モデル出身のてんちむさんをフォローしているのは、美容に関心が高い層が多い。仮に彼女へ「過去の恋を水に流せ! 恋愛成就のトイレットペーパー」をPRしてもらっても、さほど売れないに違いない。美容と恋愛は、似て非なるジャンルだからだ。

購買層を「狙い撃ち」にしないと意味がない

性別を変えた例を挙げよう。男性に人気の趣味でも「バイクとクルマ」は異なるジャンルであり、同じクルマでも「クラシックカーとスポーツカー」のインフルエンサーではファン層が大きく異なる。そうしたインフルエンサーの細かな違いを理解しているPR会社は、そう多くない。

PR会社へインフルエンサーの選定を丸投げすると、得てして似たジャンルをひっくるめた依頼をされてしまう。しかし、インフルエンサーごとにファンは細分化されており、「30代女性のフォロワーが多いインフルエンサー」「男性の車好きに人気のあるインフルエンサー」などという雑多なくくりでは、とうてい自社製品が刺さるインフルエンサーを絞り込めないのである。