銀行との強気な交渉で窮地を脱する

日本のバブル崩壊もそうでしたが、不動産取引があまりに加熱すると、政治家たちはその熱を冷まさなければならないと考えるものです。結果、トランプが所有する資産も破滅的なほどの価格下落に見舞われ、90年にオープンしたばかりの巨大カジノが91年に破たんし、84年に開設したカジノ併設のホテルも破産しました。

当時、数十億ドルとも100億ドル近いとも言われる負債を抱え、街中の物乞いを指差して、「彼は私より金持ちだ」とさえ言ったほどです。実際、91年3月26日の『ニューヨーク・タイムズ』と『ウォールストリート・ジャーナル』が一面記事で「トランプの破滅」を予告するほどトランプは追い詰められていました。

しかし、そんなことではギブアップしないのがトランプです。多くの不動産業者が破産に追い込まれる中、トランプは「他の誰もが動きだす前に銀行との交渉を始めよう」と決意します。

多額の借金は「お金を貸した銀行の問題」であり、「自分の問題ではない」と割り切ったトランプは「長期の法的な小競り合いを続けるよりは、私にお金を融資すれば良好なビジネスを続けることができる」と金融機関を言いくるめると、あとの細かな交渉は弁護士に任せて、自身は大好きな不動産開発の仕事に没頭したのです。

ついに大統領選挙に出馬

「ものごとを軌道に乗せるまでは一生懸命にがんばり、あとは成り行きに任せる」やり方が功を奏し、流れは少しずつ上向き始め、多額の借金は背負っていても、プロジェクトは進むようになり、やがて会社は以前より繁栄、トランプ自身は以前から「出るとにおわせては撤退」していた大統領選挙に出馬、見事に当選を果たしたのです。

当初、トランプの大統領選挙への立候補をまともに信じる人はほとんどいませんでした。トランプは過去に何度も立候補を表明しては撤回することを繰り返していただけに、最初は「どうせどこかでやめたと言うに決まっている」と見られていましたが、今回は本気でした。