山あり谷ありの「カオスな半生」

それだけにトランプの人生は「若き不動産王」から、「テレビの人気者」、そして「アメリカ大統領」と非常に華々しいものですが、一方で大きな失敗も経験した山あり谷ありの「カオスな半生」とも言われています。特に不動産ビジネスは好況と不況が周期的にやってくるだけに、そのカオス度はどうしても大きなものになります。

ニューヨーク、マンハッタン島の一等地にそびえ立つトランプタワー
写真=iStock.com/bluebeat76
ニューヨーク、マンハッタン島の一等地にそびえ立つトランプタワー

トランプのマンハッタンでの成功は、「ニューヨークに明日はない」と言われたほど市の財政が厳しく、不動産が値下がりしていた不況期に、大胆に「買い」に出たことで始まっています。トランプも、自分が不況を利用して土地を仕入れ、好況を利用して巨利を手にしたことは意識していました。

にもかかわらず、そんな強気のトランプが1990年代前半の不動産不況で大変な苦境に陥ったのは、長く続く好況がトランプから集中力や仕事への熱意を薄れさせたことが原因でした。こう言っています。

「マンハッタンの不動産は16年間の好況を続けた。私は右肩上がりの状況しか見てこなかった。だから、右肩上がりがずっと続くと思い込んでいた」

不動産暴落の兆しを見落とした

慢心は油断につながります。1980年代に大成功したことで、雑誌に「彼が触れたものはすべて金に変わる」などと書き立てられていい気になり、「金を稼ぐのは簡単だ」と思い込んだトランプは、服装になど興味がないにもかかわらず、ヨーロッパのファッションショーに出かけるといった行動を繰り返したのです。

その結果、かつてのトランプなら気づいたはずの「不動産暴落への備え」ができなかったのです。こう振り返っています。

「失敗するわけがないと思い始めると、人間は会社から早く帰宅するようになる」