「若さ」を武器に仕事を増やした者の不安

農家や職人のように、後継者不足のため80代でも現役であり続けなくてはいけない職種であれば、高齢者が老骨に鞭打ちながら最前線に立つ必要もあるだろう。だが、毎年のように新しい人材が入ってくる職種の場合、むしろ積極的に「新陳代謝」「世代交代」を起こしていくほうが、職場は活性化し、業界は成長していくものだ。

私は28歳になったばかりのころ、雑誌のライターになった。当時付き合いのあった編集者やライター、カメラマンはいずれも年上だった。そして32歳ごろまで、毎年のように仕事が増えていった。「若くてフットワークが軽く、文句を言わないライターがいるらしい」ということで、私に多数のオファーが舞い込んできたのだ。

これは単純に「若いから従順で使い勝手がよい」「無茶ぶりにも文句を言わず、素直に対応してくれる」と発注サイドに思ってもらえた結果だ。加えて「自分よりも年下のライターのほうが気軽に使いやすい」という面もあったのだろう。

当時は仕事をたくさんもらえてありがたかったが、冷静に俯瞰してみると、今後「若さ」という武器を失ってしまえば、自分は「使い勝手が悪い人材」「頼みづらい人材」にカテゴライズされて、次第に仕事が減っていく可能性があることを示していた。そのため、「これからは商流の上流をいかに取るかを考えなくては、将来的に通用しなくなるかもしれない」と強く意識するようになった。

ウェブメディアの世界では、ずっと年長者だった

さて、これからどうやって生きていこうか……と頭の片隅で考えながらライターをしていたところに、「ネットニュースの編集をやってみませんか?」とサイバーエージェントからオファーが来た。32歳9カ月のときだった。

「これだ!」と思い、前のめり気味に飛び込んだのだが、一緒に仕事をする同社のスタッフは私よりも若い人ばかり。「雑誌の世界では自分なんてまだまだ若手だけど、ネットニュースの世界では最年長になってしまうのか!」という仰天感はあったものの、開き直って若いライターを大量に雇い、日々のニュースを更新し続けた。

あれから14年6カ月が経過したが、相変わらず私が最年長である。サイバーエージェントの担当責任者はこの期間まったく変わっていないため、われわれの年齢差は同じままだが、その他、次々と異動でやってくるスタッフはすべてが自分よりも若い人材だった。それだけウェブメディアというものは若い感性が必要なのだろう。

実際、最近は「メシ通」や「ぐるなび」「SUUMOタウン」といった私も寄稿したことがあるウェブメディアなどを見て、若手の活躍に感心することばかりだ。自分よりも若い編集者たちがセンスをいかんなく発揮し、豊富な写真と洗練されたデザインを小粋に組み合わせたページを生み出したりしている。そうした様子を目にしてしまうと、正直、ツラくて仕方がない。

書き手のほうも、ユニークな視点から読者をクスリとさせる記事を器用にまとめるライター、しっかりと理論構築して読み応えある記事が書けるライターなど、腕の立つ若手が日々生まれ続けている。このような状況を見ると「あなたたちのような若くて才能あふれる人材が揃うキラキラした世界には、もう私、身を置いていたくありません……」とまで思うようになってしまったのである。