仕事と介護の両立で健康診断も受けられず体調異変に気づけず

Yさんは、この5年間に担当する利用者を介護している家族の死に3度遭遇したといいます。

「昨年も1件ありました。70代後半のご夫婦で、要介護になった奥さんをご主人が介護していたケース。いわゆる老老介護です。ご主人が奥さんを病院に連れて行くためにクルマを出し、部屋に戻って奥さんを車椅子に乗せて連れ出そうとした時に倒れたらしいんです。近所の方がクルマのエンジンがかかったままになっているのを不審に思って家の様子をうかがったところ、倒れたご主人を発見、119番通報しましたが、手遅れだったそうです。心筋梗塞でした。倒れてすぐに救急搬送していれば一命は取り留められたはずですが、発見が遅れてしまったようです」

救急車
写真=iStock.com/Martin Dimitrov
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高齢になって心身が衰え、普通に日常生活を送れなくなった人が要介護になる。それを子供が、また老老介護の場合は元気で健康不安がない高齢者(夫や妻)がケアする――。常識的に見れば在宅介護にはこんなイメージがあるはずです。

しかし、Yさんは「そうとは限らない」と言います。

「介護が始まる時は、どの家庭でもその図式が当てはまりますが、長くなると、そうでもなくなるんです。要介護者にはわれわれケアマネが、少しでも元気になられるようケアプランをつくります。持病のある方には訪問看護師を入れて常に体調のチェックをしますし、異変があればすぐに対処できるようになっている。指導に基づいてご家族には介護者に対して検温・血圧測定をしてもらいますし、デイサービスでも体調チェックは行っています。重病の方でない限り、当面の健康は担保されているわけです。ところが介護者にはそれがありません。とくに仕事を持っている方や真面目で介護に精いっぱい取り組む方が危ない」

「自分が支えなければ」という使命感が悲劇を招いた

仕事と介護を両立させようとすると忙しくて健康診断も受けることもなくなりますし、体調に異変を感じても我慢をしてしまうのだそうです。

「私が遭遇した(先ほどお話した)おふたりのケースもそうでした。50代の娘さんの動脈瘤、70代後半のご主人の心筋梗塞はともに高血圧という要因があり、検診を受けていれば危険信号が出ていることがわかった。医師に治療してもらうことで防げたはずです」

しかし、ふたりは自分のことはそっちのけで介護していたようです。「若いから」「元気だから」という思い込み、「自分が支えなければ」という使命感で頑張ってしまった。それが悲劇につながったのです。

「今、私が担当する利用者さんのご家族に、がんを患いながらお母さんを介護している●代の息子さんがいます。その方も介護に追われて検診が疎かになり、発見が遅れてしまった。すぐにどうこうという状態ではなく、今は自宅で療養しながら介護していますが、その方の心情を思うと切ないです。『自分が先に逝ってしまうかもしれない。そうしたら母はどうなってしまうんでしょうか?』と泣かれた時は、返す言葉が見つかりませんでした」