日本の大学は世界ランキングで下がり続けている

ところで、そんな誤解は日本にはないと評価するのであれば、過去20年における「学問の自由」の本丸における大学や研究環境における強力な、しかし少なくない誤解に基づく政治的、経済的介入の実施の説明がつかないだろう。

米中を始め、周辺国、新興国等が予算投入を活発化するなかで、日本の各大学は選択と集中を実施する一方で、世界との競争が求められたものの、東大、京大を除くと、中長期のトレンドでは世界ランキングのみならず、アジアランキングにおいてすら低下トレンドに入ったままだ。

数多の「改革」が乱発される一方で、例えば有名なQSのアジアランキングでは、かつて上位を日本の大学が占めたものだが、10位以内に日本の大学は姿を消し、13位にようやく東京大学が姿を見せる。20位までのなかには京都大学と東京工業大学が加わるのみだ。早稲田大学は38位、慶應義塾大学は41位だ。繰り返しだが、これは世界ランキングではなく、アジアランキングである。タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)のアジアランキングでは7位に東京大学、12位に京都大学、慶應義塾大学は164位、早稲田大学は201~250位だ。これもアジアランキングで、である。

東京大学の安田講堂
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです

こうしたランキングの低下は、研究者や学生にしか関係がないかのように思われるかもしれないが、そんなことはない。最近ではシンガポールがビザ取得要件を厳しくし、早稲田、慶應出身者の優遇を除外し、月給50万円以上を要求するようになった。結果、日本企業の若手、中堅の駐在員の派遣が難しくなったが、両大学のこの間のランキング低下が少なからず影響していると見られている。決して、大学やランキングの地位低下は研究者や学生だけの問題ではなく、広く卒業生や社会に関係しうる問題なのだ。

深刻なポスト不足で、「職業研究者」は敬遠されるばかり

また研究開発費20兆円の大半は民間のもので、大学には投入されていない。民間からの資金調達が言われるようになったものの、企業の共同研究等の伸びは限定的で、返礼品など過剰に優遇されたふるさと納税制度は、大学のみならずNPO等も含まれる本来の寄附市場の姿を歪めている。

国立大学の基盤的予算は、すでに20年近くにわたって年1%削減が継続し(現在休止中で、傾斜配分導入)、コスト削減に躍起だ。他方で、国立大学の収入の10%程度に留まる学生納付金についても、よくも悪くも文科省の省令によって、標準授業料と値上げの範囲が定められているなど、多くの規制が残る。またランキングを踏まえれば、世界的に見て、日本の大学の授業料は比較的リーズナブルだが、国内状況や世帯の年収の伸び悩み等を踏まえるとそうともいえず、各学生の負担感は増している。コストカットは進むが、削減分を補う途は強力な規制も含めて見当たらないのが現状だ。

ポストは決定的に不足する一方で、大学院重点化やポスドク増加の旗は振られ、それから10年以上近い時間が経過したことから、最近の若い日本人は博士課程や職業研究者を敬遠するばかりだ。留学生にとってはランキングに比して、世界的には授業料がリーズナブルなので未だに人気で、そのことは好ましいが、日本人の人口あたり博士学位取得者数は低水準にとどまり、それどころか4年制大学進学率も49%とOECD平均62%を下回る。