実際のケースでは他の社員は口論も椅子の音も聞いておらず、何よりも会議室から出てきたBはそのあとも普通に仕事をしていたということが決め手になりBが虚偽を述べたことが明らかとなった。虚偽の申し立てをしたBは懲戒処分を受けた。
なかには「モンスター部下」も……
ただヒアリングをしてもはっきり虚偽であることが分からないことも起きる。ある管理職は問題になりそうな人事面談ではICレコーダーを用意しておくということだった。今後は自衛策として必要になるだろう。
実際にあったケースでは、部下が上司をパワハラで訴えようと考えて、上司と二人だけのときにわざと上司を怒らせるようなことを言って上司を怒鳴らせ、それをこっそりICレコーダーに録音してハラスメント被害の申し立てをした。
この部下は上司が怒鳴ったところだけの録音データを出したが、ハラスメント調査でその前後も出すように言われて部下の挑発がわかった。その上司のパワハラは不問に付され、部下が懲戒処分を受けることとなった。
もはやサスペンスドラマのような話だが、こんな状況にならないようにするのに重要なのはやはり普段のコミュニケーションである。
「部下の叱り方」5原則
最後に、弁護士の観点から部下の叱り方5原則もお伝えしておこう。
②叱責に対する弁明を聞いているか
③叱責の態様に行き過ぎはないか
④叱責が社員間の公平を欠いていないか
⑤叱責がペナルティを伴うときに過大になっていないか
①は、叱責の原因である部下のミスという事実に間違いがないかどうか、十分確かめたかということである。不十分な情報をもとにして叱責することは「冤罪」になるおそれがある。
②はその部下から言い分を聞くということである。誰にでも弁明したいことはある。これを聞かないことは叱責の前提を欠く。
③は怒鳴る、机を叩くなどの威圧的な言動をしないということである。長時間の叱責もここに含まれる。
④は同じミスをしているのに別の部下にはおとがめなしなのに、その部下には厳しく叱責するというような不公平は扱いをしないということである。
⑤は部下のミスに対して当面その仕事の担当からはずすということは特に問題はないが、それ以外に何らかのペナルティを与えるときに行き過ぎないようにすることである。判決例には販売目標を達成できなかった美容部員にコスプレをさせて研修に参加させたというものがある。