反射的に「でも」をいわないと決める

【白井】無意識で発しただけなのに、文脈によっては相手が不快になる危険性がありますよね。

【吉田】そうなんです。これは意識さえすれば防ぐことができます。反射的に「でも」っていわない、と決めるだけでかなり会話はうまくなります。私も基本的に禁止にしていますが、どうしても使わなくてはいけない場合は、相手に与えるネガティブな意味合いもしっかり意識して「でも」っていいます。無意識に使う相づちの「でも」は、本当によくない。

【サロン参加者】でも……(笑)、自分から自虐的なことをいう人がいますよね。相手から「そんなことないよ」っていってほしい人というか……。その人を励ますつもりで、否定で使う「でも」もNGですか?

【吉田】「でも、そんなことないよ」ではなく、ただ「そんなことないよ」といえばよくないですか? 逆接を使わなくても、自虐的な人を励ますことはできます。そして、宮城から高速バスで来たという驚きの情報に「ええっ!?」って反応したAさんはナイスですね! 思いもよらぬ答えが返ってきたら、誰でも驚く。その気持ちを素直に表して相手に「報酬」を送れました。先ほど述べた「あっ!」とか、もう少し疑問に寄せた「えっ!」って最高の相づちです。私はしゃべり手をやっているわけですが、結局この仕事は「えっ!?」っていいたくなるような話を相手から引き出すためにしているようなものですね。インタビューなんかを「えっ!?」だけで終えられたら、むしろ大勝利です。

しかも、「えっ!?」という相づちは、もっと話してほしい、しゃべってくれというメッセージを伝えながら、自分が相手の話を面白がって聞いていることも伝わるから、だいたい相手のテンションは上がります。ある意味、相手が「あっ!」とか「えっ!?」っていうタイミングを探して、あれやこれやと会話を進めている感じなんですよね。とにかく「えっ!?」が有効に使えたのはすごくいい。

そして、この流れを引き出すきっかけになったのは、Aさんが「『どうやって』ここまで来たか」と聞いたことなんです。

疑問で聞いていくという原則は理解したとして、疑問にはいわゆる「5W1H」があるじゃないですか。その中でも、「どうやって=HOW」がもっとも会話が伸びやすいんです。これは使いやすい武器ですよ。

「どうやって?」と聞かれると、相手は必ず自分がどうしたかを具体的に描写しますから、新しい情報を大量に引き出せる可能性が高まるんです。反対に、「WHY=なぜ」だとすぐに話が終わってしまうことも多いですね。

ツッコミは「愛のある対応」。会話のスキを逃さずに

【白井】「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるから」って答えられてしまうパターンですね。

【吉田】もちろんジョージ・マロリー(※)がそう答えるのはカッコいいけど、「この前、山に登りました」という人に理由を聞いても、好きだからとか、休みだったからとか、そんな理由しかないですよね。それよりは「どうやって」を使って話を広げた方が断然いい。山登りに使った道具とか、日程の組み方とか交通手段とかについて聞くと、どんどん話が広がりますよね。

吉田尚記『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)
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高速バスから「宮城県」という情報を得たので、たとえ関心がなくても、ここはもう少し質問を続けてもよかったかもしれない。天気の話でいえば、東京と宮城県では天気や季節の進み方が違うじゃないですか。そのあたりでも会話のラリーが続けられそうですね。

最後に、Bさんは「お尻が痛い→尻芸できない」を2回繰り返しました。Aさんは反応しなかったけど、ここもポイントになります。Bさんがツッコミどころを用意してくれていたのに、スルーしちゃいましたね。普通の会話からだんだん熱がこもってきて、少し自分を出せたところでそれをスルーされると心が折れちゃいます。

初めての相手に対していきなり笑ったり、ツッコんだりしていいのかと思うかもしれないけれど、ツッコミって「愛のある対応」だと思うんです。少なくとも2回繰り返したということは、Bさんは絶対にツッコんでほしくて渾身のパスを出していたはずなんです。相手が自分を面白がらせようとしてきたら、たとえ自分が別のことを考えていても、早く次の話に展開したくても、100%受け取った方がいい。

【サロン参加者】乗っかると面倒なお調子者もいるんじゃないですか?

【吉田】そう、確かにちょっと面倒な人はいる。そんな人でも、人生の貴重な時間を共有しているわけじゃないですか。お互いの時間を大切にするために、勇気を出してツッコんでほしいですね。

Bさんが会話にスキを作ったのはとてもいいことだし、それは絶対不利にはならない。こういう相手の発言や変化を聞き逃さないようにしたいし、もしスルーしてしまったのを後から気づいたら、「あれ? さっき○○っていいましたよね!」って、戻ってもいいと思うんです。

※ジョージ・マロリー 1886年生まれ。イギリスの登山家。1920年代にイギリスが国を挙げてチャレンジしたエベレスト遠征隊に参加。1924年の第3次遠征において頂上を目指したが、頂上付近で行方不明となった。「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」と問われて「そこにエベレストがあるから」と答えたという逸話で有名。日本語では「そこに山があるから」と意訳されて流布している。

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