逆に言えば、パイプラインの中がリーンだから、どこに何が足りないというのは時々刻々とわかる、そこがよかったです。たとえば中国マーケットは早く回復したので、日本からの調達部品はそちらに重点的に振り向けた。
僕はCPOの立場で、生産本部と販売本部の調整をしました。販売本部と生産本部を集め車種別に、作ることができるのはどの車種なのか。売れているのはどれかをお互いにつきあわせて、その場でどこに力点を置くかを決める。生産に余力のある車を売るために営業はその車の販売促進策を集中的に打つ一方、売れている車をさらに売るために、そこの工場の工程に生産調査部のスタッフを投入する。そうして、生産のサイクルタイムを1秒でも2秒でも縮める。そういう製販一体の連携も危機管理では重要です」
「危機があってから体を鍛えても遅い」
「うちには設備は償却してからが勝負だというポリシーがあります。試作工場では、償却し終わった設備を直して、手で一つひとつ機械をセッティングして部品を作ったりしている。それができる技能系のスタッフがいるし、昔の機械でも修理できる保全マンがいる。それを若手にまた教えたりして。モータースポーツブランド『GAZOO Racing』の車の部品を作ってもらってますよ。レース用部品は少量生産ですから。
トヨタ生産方式は変化に強い。やっているうちに変化が好きになってくる。変化があった時ほど、オレの出番だという連中が大勢いるのが強みです。
変化にどれだけ強い企業体質を作るのかは、変化があってからでは遅い。トヨタ生産方式はふだんからそういう体質にするための掟というか作法みたいなものですよ。企業体質と言えば、すぐ収益力とか開発力となるのでしょうけれど、それは結果です。収益力、開発力を生み出す土壌、人材、企業風土がもっとも大切なんです。
そして、この3つがそろってないとトヨタ生産方式を実行することはできない。一朝一夕ではできない方式です。危機があってからではもう遅い。危機があってから体を鍛えても遅い。僕はそう思う」
理屈では分かっていてもなぜ実践できないか
なお、補足するが、トヨタ生産方式についてはマニュアルもあるし、たくさんの本が出ている。専門のコンサルタントも世界中にいる。
勉強しようと思えばいくらも方法はある。ただし、本を読んだり、コンサルタントからレクチャーを受けたりしても、それだけではトヨタ生産方式をほんとうに理解するのは難しい。
それはどうしてなのか。
トヨタ生産方式は決して難しい理屈から成り立っているわけではない。高校を卒業したばかりの人間が生産現場に入って1カ月もすれば自然と覚えてしまうものなのだから。理論的な理解はできる。
ただし、この方式は理論をわかっただけでは実践できない。