例えば、サッカー大会中に落雷に遭い、重度の障害を負った高校生が学校側と主催者を訴えた事故で、差し戻し審の高裁判決では「逸失利益(将来仕事によって得たであろう収入を失った損害)や介護費用など約3億円の支払い」を命じている(高松高裁・2008年9月17日)。
ところで、高額の賠償を命じられるケースがあるからといって、私は子供たちを育てるための本来の活動が萎縮してしまうことを憂慮する。学校や主催者は、安全には十分配慮しつつも、不慮の事故が起きたときには保険会社や弁護士などに任せるという割り切った考え方をし、自由な発想で伸び伸びと部活を指導してもらいたい。
夏になると、課外活動の野球やサッカーの練習中に熱中症で倒れて死亡するケースもある。部員の健康状態への配慮や適切な救護処置をとったかどうかで、業務上過失致死傷罪など指導者の責任が問われることもある。その際、監督など実質的な管理者が責任者になる。
これは民事事件だが、中学のハンドボール部の練習中に熱中症で死亡した賠償訴訟では、個々の生徒の体力に応じてトレーニングの軽減、水分補給など十分な予防措置を行わなかったことに過失を認める判決があった(名古屋地裁・07年9月26日)。私の高校時代、野球部の冬場のトレーニングでは、山道を各自がバラバラに全力で走っていた。
安全配慮義務の内容は、私の高校時代と大きく違う。40年前には練習中の水分補給など許さない指導が幅をきかしていた。警告する医師さえ見あたらない時代だったから、責任は問われなかったかもしれない。が、現在は水分補給が常識で、熱中症の知識も普及している。「今」の常識が裁判にも大きな影響を与えるのだ。
※すべて雑誌掲載当時
(構成=吉田茂人)