紳士を是とするはずの英国の振る舞いは、実に野蛮

それでは両者の交渉が決裂するのかというと、そう簡単ではないだろう。ジョンソン首相は少なくとも新協定を締結するための期限である10月15日からのEU首脳会談までは、強気の交渉スタンスを内外に示さなければならない。しかしながらその後は、現状を維持するための現実的な解決策の交渉に臨むのではないだろうか。

現状を維持するための現実的な解決策が移行期間の単純な延長であるとは限らない。実態としてはそうでも、移行期間とは異なる新たな名称を与えたり、物品を限定したWTOルールの導入を図ったりするなどして、何とか体裁を整えるのではないだろうか。こうしたレトリックは英国の得意とするところである。

ビッグベンを背景に、ひげを気にするイギリス人男性
写真=iStock.com/Orbon Alija
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いずれにせよ、交渉は年末ギリギリまで続くだろう。ジョンソン政権の外交スタンスは、文字通りの「独りよがり」である。実際は骨抜きでも、意図的に国際合意の反故にする国内市場法案を一方的に準備する英国の交渉のやり方は、先進国の外交のそれとはおよそ思えない瀬戸際戦術であると言わざるを得ない。

紳士を是とするはずの英国の振る舞いは、実に野蛮である。国際的な威信が日に日に低下していることを、英国自身はどのように感じているのだろうか。策士策に溺れるという言葉があるが、新型コロナウイルスの感染拡大という強い逆風を受けて、ジョンソン政権は今まさにそうした状況に直面しているのである。

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