EU離脱協定を破る「骨抜き」の法案の中身

英国と欧州連合(EU)の将来関係に黄色信号が灯っている。英国のジョンソン政権は9月9日、昨年10月にEUとの間で合意に達した離脱協定を反故にする国内市場法案を議会に提出した。当然EUはこの動きに反発、翌10日には双方が英国の首都ロンドンで臨時会合を開き、EUは英国の動きを強く批判した。

2020年9月22日、内閣の週例会議に出席した英国のボリス・ジョンソン首相が、ロンドン・ダウニング街を歩いていく
写真=AFP/時事通信フォト
2020年9月22日、内閣の週例会議に出席した英国のボリス・ジョンソン首相が、ロンドン・ダウニング街を歩いていく

本来、この法案は22日にも下院を通過する見込みであった。しかし新型コロナウイルスの感染の再拡大を受け、議会での審議は29日まで後ずれした。実際、1日あたりの感染者数は4000人近くと4~5月期に経験した第1波のピーク時並みまで増えており、ジョンソン首相は新たな感染抑制策の実施を優先せざるを得なくなった。

この法律のポイントは、北アイルランドの取り扱いに関するEUとの取り決めを英政府が意図的に反故にしたところにある。英国は今年いっぱい、離脱前と同じ条件でEUの単一市場にとどまる「移行期間」にあるが、それが終了した後は北アイルランドだけがEUの単一市場にとどまることで合意に達したはずだった。

そして、北アイルランドから英本土間に流入する物品に関して、一定の検査や手続きが必要となるはずだったのが、国内市場法案にはそうした手順を回避すると明記された。加えて、英国とEUの通商協定がまとまらなかった際に適用されるはずの取り決めの数々を、英政府が一方的に無効化できるというルールが盛り込まれた。

ジョンソン政権が国際合意を意図的に反故にしたことは紛れもない事実であり、英下院では最大野党の労働党を中心に同法案に反対する声が噴出した。結局、英下院は9月29日に同法案を可決したが、発動にあたっては与党・保守党議員からも大量の造反が見込まれる下院での議決を要するなど数々の修正が施され、相当「骨抜き」となっている。