中庸な人は発信をやめてしまう

その結果何が起こるか。「極端な人」は多く発信を続け、それは留まることを知らない。その一方で、中庸な人はもともと発信のインセンティブが弱いうえ、「極端な人」が怖くて発信をやめてしまう。

そうすると、社会に大多数いるであろう中庸な人――他人の意見に耳を傾けられる人・ある物事や人について弱く支持している人・ある物事や人について不快に感じたり反対に思ったりしたが直接攻撃しようとまでは思わない人など――は、ネットの言論空間にはほとんどいなくなってしまい、代わって少数であるはずの極端な意見の持ち主が、ネットのマジョリティを占めるようになる。

これを図にすると図表1のようになる。この図で、横軸は意見の違いを表しており、左に行くほど反対・不支持であり、右に行くほど賛成・支持である。つまり、真ん中は中庸的な意見で、両端は極端な意見となっている。また、縦軸は人数を表している。

ネットでは社会と異なり谷型の意見分布となる

一般的に、極端な意見の人より中庸の意見の人が多いので、社会における意見の分布は中央に集まる形になり、破線の分布がそれを表している。つまり、社会の意見分布はたいていの場合山型を形成する。

しかし、ネットではこうならない。①「極端な人」ほど発信する。②中庸な人ほど「極端な人」を恐れネットで発信しない。という2つの特徴から、ネットでは実線の谷型の意見分布となるのである。

この谷型の意見分布こそが、今我々がまさに目の当たりにしており、「ネットは怖いところだ」と思っている言論空間そのものなのである。

「憲法改正に対する意見」を3000名にアンケート

もっとも、これらの考察はあくまでも「理論」である。そこで、実際にこうしたことが起きているのかどうかを裏付けるため、調査を行うことにした。

山口真一『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)
山口真一『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)

私は20~60代の男女3000名を対象としたアンケート調査を実施し、この現象の分析を行った。具体的には、ある1つの話題――ここでは憲法改正――に対する「意見」と、「その話題についてSNSに書き込んだ回数」を聞き、分析したのだ。憲法改正は、長い間日本で大きな注目を集めているトピックである。

簡単にこのトピックについて説明すると、憲法が制定されてから70年以上経ち、国内外の環境が大きく変化する中で、今日の状況に対応するための改正が必要だという意見が出ている。特に2020年6月現在の政権(安倍晋三内閣)は、その方針を明確に打ち出している。

一方、それに反対する政治家や国民も多い。主に議論の争点となっているのが、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を規定している日本国憲法において、自衛隊を明記することと、集団的自衛権の行使を認めるかどうかという点である。