たとえば、あなたが属する営業部門と、隣り合わせの開発部門との仲が悪く、喧嘩が絶えないとしましょう。「売れる製品がつくれないのは、両者の間の信頼の欠如が原因だ」とわかったら、開発部門の知り合いに声をかけ、仕事のやり方をじっくり観察させてもらうことをお勧めします。大切なのは、営業の人間という気持ちを一度捨てて、開発の人間になりきることです。そういう意識で仕事を観察すると、営業部門からの情報提供がいかにずさんかに気づくのではないでしょうか。
いつ、どんなふうに、営業からの情報を伝達すれば、もっと市場性のある製品が開発できるか。そういった課題を今度は営業部門に持ち帰り、話し合ってみるのです。あなたに賛同し、次の仕掛けを一緒に考えてくれる人がきっと現れるはずです。このように、トップ同士が話し合わなくても、物事を進めるやり方があることを覚えておいてください。
そのときに必須なのが「正当な意思」をもつことです。この場合、「営業と開発の連携を密にし、売れる製品づくりをすること」がそれです。私利私欲から発したものではなく、組織をよりよくする提案だったら、ほとんどの人が賛成してくれるはずです。そうやって、多くの人を巻き込める“錦の御旗”を掲げられたら、改革は半ば成功したようなものです。
信頼構築に欠かせないものがもうひとつあります。「対話」です。『手ごわい問題は、対話で解決する』(ヒューマンバリュー)という本を書いたアダム・カヘンという人がいます。対話を用いたファシリテーションによって、南アフリカのアパルトヘイト問題を解決した人ですが、そのやり方は肌の違いや貧富の差など、利害関係が対立する集団のトップを残らず集め、背中に背負っている面子やプライドを全部下ろさせ、素のままの人間として心を開いた対話を通じて、同国の未来シナリオを考えさせるというものでした。