国際比較のデタラメ

論争の混迷を深めているのが、「海外では桁違いの検査を行っている」といった国際比較だ。少し前になるが、日経新聞9月4日付記事『増やせぬコロナ検査 日本に4つの課題』では、「日本の検査数は欧米に見劣りする」と題するグラフが掲げられた。

マスコミや野党だけではない。新厚労大臣の田村氏も、与党議員として4月に国会質問した際、国際比較のグラフを掲げて「日本の検査数は圧倒的に少ない」と指摘したことがあった。

PCR検査国際比較のグラフ

こうした国際比較のあやしさも、『国家の怠慢』で指摘した。感染規模が日本と桁違いの欧米諸国で、桁違いの検査が行われているのは当たり前だ。これと比べて「欧米諸国は検査をたくさんやっていて素晴らしい」と賞賛する意味はないし、「検査数を欧米並みに」と提唱する根拠にもならない。国際比較を都合よく用いる典型例だが、これも相変わらず続いている。

大量検査が感染抑制につながるとの議論もなされがちだが、根拠不明だ。主要国の検査数と感染者数の推移をみても、そんな形跡はない。検査をたくさんやっている米国は感染者数がなかなか減らない。ロシアは初期段階から検査数が多かったが感染拡大し、高止まりが続く。オーストラリアやフランスは大量検査を続けながら第2波に見舞われた。

不思議な「海外を見習え」論

一方で、「検査数が欧米に見劣り」する日本や韓国の感染者数は少なく、別格で感染抑制に成功してきた台湾の検査数はさらに「見劣り」する。

都市単位で「ニューヨークは感染抑え込みに成功。東京は失敗。差を生んだのはPCR検査の数」といった説もあるが、これもデータをみればそうは見えない。ニューヨークは桁違いの感染拡大を経て、ようやく東京のピーク水準に落ち着いてきたところだ。不思議な「海外を見習え」論にしかみえない。さらに、検査だけでなく、店舗の営業停止などの強力な感染対策が継続されてきたこともなぜか見落とされている。

「検査数が多ければ死亡者が少ない」(陽性率7%未満では死亡率が少ないなど)との説も春頃に盛んに唱えられた。これも最新データを見ても、そんな相関関係はありそうにない。ちなみに、4月初めに「陽性率が低く、死亡者が少ない」代表例だったロシアやカナダはその後状況が一変してしまった。