オンライン授業のおかげで留年を回避した学生も

美術大学や音楽大学などは、一般的な大学以上に実技での学びが重要となる。その分、学費も高額だ。授業のオンライン化で、対価に見合った学びが得られないなら留年という選択を取ることも仕方がないように思える。

「秋学期から実技だけは対面授業に切り替える専攻もあるらしいですが、私の専攻は引き続きオンラインで行うようです。サークルや個展の開催などの課外活動を充実させるのも難しい中、これからの学生生活が不安です」

オンライン授業にならなければ留年することはなかったという池田さんは、氷山の一角にすぎない。享受できるはずだった学びを授業のオンライン化が奪ったことは、多くの大学生に深刻な影響を与えている。

一方で、池田さんとは逆に授業のオンライン化で留年を免れたと話す大学生もいる。筆者の友人である岸部さん(仮名・22歳)は、都内の私立大学文系学部に通う大学4年生。授業がオンラインになってから取得単位数が激増したという。

「去年の私はゼミの単位すら落として、秋学期の取得単位はたったの2単位。留年はほぼ確定してしまったと思い、4年での卒業は諦めるしかないかと考えていました」

しかし、岸部さんは授業がオンライン化された今学期は打って変わって28単位もの単位を取得することに成功した。今までとったこともない好成績のおかげで、何とか留年も回避することができたという。一体、彼女に何があったのか。

「人の目が怖くて家に引き返してしまう」

「私がこれまで大学で単位が取れなかったのは、精神的な障害を抱えていたことが原因です。双極性障害(躁鬱病)を抱える私は、これまで普通の人のように外出をすることができず、授業への出席が困難になることが頻繁にありました」

取得単位数の比較

「鬱の症状が出ているときに外出をすると、人の目が極端に怖くなってしまうんです。周りの人が自分のことをブスだ、奇形だと思っているように感じてしまい錯乱してしまいます。大学に通うには東京駅を経由しなければならないのですが、そこでの人混みが特に苦手で……。道行く人が自分の顔の悪さをわらっているように思えて、家に引き返してしまうんです。当然、大学には行けず単位もろくに取得できませんでした」

実際の岸部さんは、学内で目立つほど傍目には誰しもが美人だと思うような顔立ちだ。しかし、多くの人がいる場所では自分のルックスの悪さに注目が集まっていると感じてしまう。このような精神状態は「醜形恐怖症(身体醜形障害)」と呼ばれる。自己の身体的なイメージが実際よりも低いことが原因で、自分の身体の美醜に極度にこだわってしまい、日常生活に支障をきたすことも多い。