「自分と同じ意見」しか見えなくなっている
興味深いのは、判断能力に優れると自負する左派・リベラル派の人びとは、「アベ政治」や自民党が支持されていることを苦々しく、また支持者たちを軽蔑していながらも、しかし「なぜ支持されているのか」については皆目見当がついていないことだ。
彼らは史上最長の政権となったアベ政権への憤懣のあまり「自らと政治的主張、社会的価値観が異なる者」のことばに耳を傾ける余裕が失われている。「ただしくない者を支持するような者のことばなど聞き入れるに値しない」と、最初から相手にしないのである。そうしてオンライン上でも同質的な意見のみをシェアしたり拡散したりしてエコーチャンバーを構成し「一般層」との乖離を深め、さらに憎しみと怒りを蓄積するという悪循環に嵌りこんでしまっている。
「ともに考える」のを諦めたから、政権は長続きした
日本経済新聞社による「政治思想別のネット上のコミュニケーション行動の差異」についてのビッグデータに基づく分析は、エコーチャンバーがリベラル派の間で大きく形成されている傍証を提供し、大きな衝撃を与えたのは記憶に新しい。コミュニケーションの閉鎖系のなかで、「まともな判断能力があればアベやスガなど支持しない」「私たちはバカに私たちと同じ権利や自由があるせいで、ただいな損害を被っている」といった物語に耽溺する。だが、侮蔑と嘲笑のまなざしが注がれていることに気づかないほど大衆は愚かでも鈍感でもない。
たしかに左派やリベラル派の多くの人びとは、高い学歴があり、政治にも明るく、文化的教養にも通じている傾向があることはたしかだろう。だがそんな彼らが、大衆がいまなにを見て、なにを考えているのか――対話のなかでその問題点を「ともに考える」ことを諦めてしまったからこそ「アベ政治」は7年半も長続きし、そして「スガ政治」へと切れ目なく継投されていくことになる。