中国側は「重い代償を払わせる」と応酬

一方、中国の王毅外相は8月31日、チェコに対し「重い代償を払わせる」「台湾問題で『一つの中国』に戦いを挑むことは、14億人の中国人民を敵に回すことで、国際的な背信行為だ」と述べた。

チェコ代表団が台北から無事に首都・プラハに帰り着いたのちも、中国からの「報復」は続いている。9月7日、奇妙なニュースが流れてきた。中国の顧客がチェコ製ピアノの発注を取り消した、というのである。

日本経済新聞(9月7日)によると、中国政府がチェコ製品に禁輸を科すことになり、これを受け、北京の顧客が約530万コルナ(約2500万円)に相当する老舗ピアノメーカー「ペトロフ」へのピアノ発注を取り消したという。

在チェコ中国大使館の資料によると、2018年にペトロフの全出荷台数のうち3分の1が中国で売られたという。同社にとって、中国マーケットがいわば最大のお得意様で、これを失ったら、存続を左右する死活問題になりうる。

大統領自らピアノ演奏を行う友好ぶりだったが…

中国では2018年以来、「一帯一路」沿線各国で作られた中国向け貿易品目を展示する「中国国際輸入博覧会(CIIE)」を毎年上海で開いている。これの第1回開幕に合わせ、チェコのゼマン大統領が訪中。その際、チェコのブースに展示されていたペトロフ製ピアノを使って、習近平国家主席を前に、同大統領が自ら記念の演奏を行った。曲は、ジャズのスタンダードナンバーとして有名な「センチメンタル・ジャーニー」。上海ジャズの歴史は世界に知られることから、それを意識しての選曲だったのかもしれない。こうした経緯から、ペトロフの中国での「行方」が、国際問題の場に持ち出されてしまったとも言えようか。

かようにチェコは「ある時点」まで、中国を友好国として捉えていた。ところが、「大統領の習主席へのピアノ演奏プレゼント」をよそに、徐々に中国のチェコにおけるプレゼンスの低下が露呈。今ではチェコにとって、「経済上では対中関係はあってもなくても良いレベル」となっている。(日経アジアンレビュー、9月7日

EU圏最大の鴻海拠点をもつ国でもある

中国と明確に対峙する一方、チェコは台湾資本を積極的に受け入れている。

チェコに進出している外国法人で最大投資者は台湾に本社を持つ鴻海科技集団(フォックスコン)だ。同社は電子機器の生産を請け負う電子機器受託生産(EMS)では世界最大の企業グループで、あのアップル社のiPhoneの組み立て工程も引き受けている。

その他にも、ASUSやACERといった世界に知られるPCメーカーがチェコでビジネスを展開している。目下、米中関係が著しく悪化する中、鴻海はサプライチェーンを中国国内とそれ以外とを分断する構えを見せており、そうした流れを見てもチェコ拠点の重要性はさらに高まる。