5大商社が「永久保有銘柄」になれる可能性はあるか
バフェット氏は「証券取引所が5年、10年と閉鎖されても気にしない」を口癖にしている。長期投資を信条にしているからだ。これはと思った銘柄については「永久保有銘柄」と宣言するほどだ。その中には米飲料大手コカ・コーラや米クレジットカード大手アメリカン・エキスプレス(アメックス)などが含まれる。
もっとも、「永久保有銘柄」だから安泰というわけでもない。例えば米大手銀行ウェルズ・ファーゴだ。過去30年間にわたってバークシャーの大量保有銘柄の一つであったのに、今年に入って大量売却されていることが判明している。不正営業で制裁金を科されるなどガバナンス問題が背景にあるとみられている。
長期保有の前提にガバナンスがあるのだ。ここでのガバナンスとはバフェット基準に立脚したガバナンスであり、重視するのは「形式」ではなく「実質」だ。
形式とは、「社内出身ではない」「取引関係にない」といった基準のことだ。5年前の東芝不正会計事件の際には形式的なガバナンス論が幅を利かせ、自社株保有はほとんど議論にならなかった。
社外取締役が形式的に独立性を確保しているからといって、経営陣を厳しくチェックするとは限らない。多額の現金報酬を得ていればむしろ甘くなりかねない。自社株を大量保有していなければ、仏作って魂入れず、なのだ。
「株主軽視」から「株主重視」へ大転換するチャンス
バフェット氏は5大商社株の持ち株比率(各社5%強)を最大9.9%まで高める意向を示している。バークシャーがコカ・コーラ株の10%、アメックス株の19%を握っている点を考えれば、場合によっては本格的な長期保有になる可能性もある。
バフェット氏の眼鏡にかなう日本企業が出てきたというのは、「失われた30年」とも言われる日本にとっては久々に明るいニュースだ。「3本の矢」からなるアベノミクス3本目の「成長戦略」にかなう展開ともいえる。
だが、繰り返しになるが、長期保有の前提はガバナンスであり、ガバナンスの核にあるのはバフェット基準だ。5大商社がどこまでバフェット基準に近づけるのか、これから試される。
同時に、日本企業が株式持ち合いに象徴するされる「株主軽視文化」から脱皮し、バフェット流の「株主重視文化」へ大転換するチャンスでもある。そうなれば、不発に終わったとされる「成長戦略」のてこ入れにもつながるのではないか。その触媒になるのが5大商社だ。
個人的にもそんな展開になってほしいと思う。22年前にインタビューして以来、ずっと「いつになったら日本株に投資するのだろう」と思い続け、日本株について記した手紙をバフェット氏に出したこともあったのだ。