バフェット基準の2大特徴「自社株は極大」「現金報酬は極小」
背景には日本経団連を中心にした「株主主権」へのアレルギーがある。経営者の間では「株主利益を追い求めると経営が短期志向になる」との見方が根強く、一部の学者の間では「会社は株主のものではなく社員のもの」という意見が出たことさえある。多様なステークホルダー(利害関係者)の中で株主利益ばかり見るとバランスが崩れるという理屈だ。
だが、ステークホルダーの中で最大のリスクを負っているのは株主だ。経営が傾けば真っ先に損失を被り、無一文になる。逆に言えば、株主の利益を守れれば、債権者や従業員、取引先などほかのステークホルダーの利益も守ることができる。
よく出てくるもう一つの議論は「社外取締役にきちんとチェックしてもらうために報酬はできるだけ高いほうがいい」だ。これもバフェット基準とは相いれない。バフェット基準の2大特徴は「自社株保有はできるだけ大きく」と「現金報酬はできるだけ少なく」なのだ。
少し考えれば分かることだが、現金報酬が多ければ多いほど、社外取締役は経営陣に頭が上がらなくなる。事実上「雇用」してもらっている関係にあるためだ。それこそ中立性を失い、経営陣と利害を一致させる格好になりかねない。社外取締役のチェックを甘くしたい経営陣にとっては好都合だろうが……。
バークシャー取締役の年間報酬は100万円以下
この点でお手本になるのがバークシャーだ。世界最大級のコングロマリット(複合企業)であるというのに、年100万円以上の報酬をもらっている取締役会メンバーは1人もいない(バフェット氏と副会長のチャーリー・マンガー氏も取締役会メンバーであるが、経営側に属するので除いてある。ちなみに両氏の基本給は25年以上にわたって年間10万ドルに固定されている)。
2019年度を見てみよう。社外取締役は取締役会に1回出席すると900ドル(電話で参加すると300ドル)、監査委員会メンバーでもあると四半期ごとに別に1000ドルもらえる。社外取締役10人中、年間6700ドルが4人、2700ドルが4人、それ以下が2人だった。
6700ドルは円換算で70万円強であり、日本のコングロマリットである5大商社の社外取締役とは比べものにならないほど少額だ。ちなみに、社外取締役の1人当たり年間報酬を見ると、三菱商事で2000万円を超えているのに対し、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅各社でそれぞれ1500万円前後だ。
一方で、バークシャー社外取締役の自社株保有額は途方もなく大きい。一例として、バフェット氏が名経営者として尊敬するトム・マーフィー氏(米大手テレビ局ABCの元会長)を挙げよう。20年近く取締役を務めている同氏の持ち株時価は、バークシャー株の値上がりもあり円換算で約240億円に達している。
毎年100万円に満たない現金報酬と時価240億円に上る持ち株を比べたら、マーフィー氏にとってどちらが大事だろうか? おのずと答えは出ている。