「投資の神様のお墨付き」と大喜びしている場合ではない
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の率いるバークシャー・ハザウェイが、日本の5大商社株を大量取得し、大株主に躍り出た(各社発行済み株式の5%以上)。投資規模は60億ドル(約6350億円)に上る。
このニュースは個人的に感慨深かった。1998年にバフェット氏が住むネブラスカ州オマハを訪ね、「日本株に興味ないのか?」と直接聞いたことがあったからだ。バフェット氏は「ROE(株主資本比率)が低過ぎる」などと答え、日本株と距離を置く姿勢を示した。それから20年以上経過して、ようやく日本株を買ったのである。
だが、5大商社は「投資の神様のお墨付きを得られた」と大喜びしている場合ではない。各社のROEは10%前後を確保できているが、バフェット氏は投資判断する際にコーポレートガバナンス(企業統治)にも目を向けるからだ。
目先の収益力が高くてもガバナンスに問題があれば長期的には失敗する――このようにバフェット氏は考えている。その点で5大商社は問題含みなのだ。
バフェット氏「レンタカーを洗車しようとは誰も思わない」
バフェット氏にとってのガバナンスとは何なのか。一言で言えば取締役会と株主の利害の一致であり、「バフェット基準」と呼んでもいい。同基準に照らし合わせると、5大商社の現状はとても褒められたものではない(特に住友商事と丸紅)。
法的には、取締役会は最高経営責任者(CEO)ら経営陣をチェックして株主利益を守る立場にある。そのためには取締役会メンバーは大量の自社株を保有し、オーナー(株主)目線を持たなければならない(米国で取締役と言えば、特に断りがない限り社外取締役を意味する)。これがバフェット基準だ。
バフェット氏は比喩がうまい。取締役会にオーナー目線が必要な点を強調しようとして「レンタカーを洗車しようとは誰も思わない」と語ったことがある。意味するところは、「自分で所有する車ならだれでも喜んで洗車するけれど、レンタカーを洗車しようと思う人はいない」である。
バフェット氏は自己資産(円換算で8兆円以上)の99%を自社株で保有しており、自らオーナー目線を徹底している。バークシャー株主に対して「私が愚かなことをしたら、皆さんと同じように私も損していることを慰めにしてほしい」と折に触れて語っている。