宿の稼働率は前年比マイナス90%
「例年800を優に超えていたチーム数は、30チームほどに減りました」(菅平プリンスホテル専務で菅平高原旅館組合副組合長の大久保寿幸氏)という壊滅的な状況になっている。「合宿の町」の経済的なダメージは、計り知れない。
2012年から15年まで、エディー・ジョーンズが率いたラグビー日本代表がキャンプ地に選び、トップリーグのサントリーサンゴリアスや東芝ブレイブルーパス、大学ラグビーの名門慶應義塾大学も例年宿泊するプチ・ホテル ゾンタックもキャンセルの連絡が続々と入ったという。オーナーの松浦紀美雄氏は、現状をこう語る。
「7月の売り上げは昨年対比で10%。8月は数件ですが合宿が入ったので25%ほどの見込みです。合宿はもう少し入る予定でしたが、同じタイミングで複数のチームが予約したとわかると、先方から『密になるから』とキャンセルになったケースもありました」
夏はラグビー一色に染まる菅平だが、ラグビーのほかにも準高地で過ごしやすい気候を求め、陸上の長距離や水泳、サッカーなどのチームが合宿に訪れる。冬にはパウダースノーを求めてスキー合宿の子どもたちなども多くやってくる。
しかし、コロナ禍で訪れる人がいない事態が続くと、来年にはおおよそ半数の宿が廃業に追い込まれる可能性があるという。損失額は宿泊費だけで20億円を超えるという試算もある。
ラグビーでの合宿の場合、宿経営者たちが「菅平ルール」と呼ぶ慣例がある。その一つが、合宿を受け入れる宿はかならずグラウンドを保有していないといけない、というものだ。これも菅平ならではだが、100面以上あるグラウンドのほとんどが、行政ではなく宿それぞれが持っている私有地なのだ。ほかの宿のグラウンドを使用するには、規定の使用料を払う必要がある。「菅平は、宿がグラウンドを持っているんじゃなくて、グラウンドに宿がついている」(松浦氏)というほどだ。
ラガーマンたちがクラウドファンディングでの支援を開始
そのため各宿は、天然芝のグラウンドの維持費はもちろん、固定資産税も経営に大きくのしかかる。現在の状況が続くと、宿の経営がたちゆかなくなり、グラウンドも使われず、合宿地としての存続が難しくなる。夏合宿の“聖地”が、消える可能性が出てきたのだ。19年のW杯であれだけ日本中を熱狂させたラグビー選手たちを育てた聖地がなくなるかもしないのだ。
そこで、この菅平を危機から救おうと有志が集まり「WE AREスガライダーズ」というクラウドファンディングのプロジェクトも立ち上がった。8月末までに5000万円を集め、宿を支援することで夏合宿の聖地を守り、そこから羽ばたく選手を増やそうとしている。