「種」は輸送コストが極めて小さい

それにしても、相手の目的は一体なにか? 米国農務省(USDA)は「ブラッシング詐欺の可能性」を示しました。

ブラッシング詐欺とは、通販サイトで注文件数や高評価レビューの水増し行為を目的としたものです。販売業者がブラッシング業者(ブラッシャー)に報酬を渡します。ブラッシャーはサイトで注文をしたら、販売業者は空箱などを送り、受け取った後にブラッシャーが高評価レビューをつけるというものです。これにより、販売業者には多数の高評価レビューがつくので、消費者はそれを信じて購入が促進され、売り上げをあげます。

今回は事前に販売業者とブラッシャーが結託したケースではなく、一方的に送りつけて受け取りが完了すると、販売業者が高評価レビューをつけるというものです。

送りつけるものが「種」なのは、輸送コストも極めて小さくなるからと考えます。詐欺を働くものは、組織的かつ徹底したコスト意識とデータ分析に基づいて、最大のリターンを狙います。これは従来行われている詐欺手法で、2017年に公開されたForbesの記事で紹介されているケースでは、ペンシルバニア州に住む女性がAliExpressで買い物をした後、業者が女性の偽アカウントを作成し、ウソの高評価レビューをつけたというのです。彼女は自分があずかり知らぬ間にネットで高評価レビューをつけることとなり、自宅には中国から小さなヘアタイが送りつけられています。

「サクラレビューを書きませんか?」

中国の販売業者のサクラ

今回の種はベトナムから送られているようですが、そもそも高評価レビュー詐欺の問題は中国と密接に関係があります。近年、Amazonのサクラレビューの質が大きく変貌していることが問題になっています。

少し前まで、名前を聞いたこともない、有名ブランドにそっくりな中国の製品に対して、非常に不自然な日本語で高評価レビューが書き込まれるようになりました。短期間に不自然なほど大量の、そして不自然な日本での高評価レビューばかりですから、消費者もパッと見て「怪しい」とわかるものでした。

しかし、近年この手のサクラレビューを見極めることが難しくなっています。なぜなら、日本人が中国の業者から報酬を受け取って書き込みをしているからです。「Amazonのプロフィール欄にメールアドレスを書いておくと、中国の販売業者からサクラレビューを書きませんか? というオファーが届く」という者もおり、アルバイトとしてこのサクラレビュワーに加担する日本人がいるのです。商品を普通に購入処理をするのですが、後ほど販売業者からPayPalを通じて商品代金が返金されます。これにより、レビュワーは商品を無料で受け取り、さらにサクラレビューの報酬まで受け取れるのです。