NHKというのは、非常事態宣言のようなものが出されると、あっという間に国策放送会社として機能し始めるのである。

コロナで各メディアが取材を制限される中、由々しき事態が進行している。

危機を口実にして権力の行使が強化されている

批評家の東浩紀氏が朝日新聞(8月5日付)で、イタリアの哲学者・アガンベンの言葉を引用して、こう語っている。

「アガンベンの指摘は妥当だと思います。主張の眼目は『ウイルス危機を口実にして権力の行使が強化されていることを警戒すべきだ』というものでした」

安倍首相を含めた自民党の中に、この機に乗じて憲法を改正し、「緊急事態対応」の対象に大規模な感染症を加えようとする動きがある。「国難」を名目に、安倍首相の悲願である憲法改正を火事場泥棒的にやろうというのである。

菅義偉官房長官も、7月19日、フジテレビの報道番組「日曜報道 THE PRIME」の中で、新型コロナ対応をめぐる現行の特別措置法の改正が必要だという認識を示したそうだ。さらに菅氏は、感染が広がる温床といわれる歌舞伎町を念頭に、ホストクラブやキャバクラに対し、警察を介入させるとも発言している。

権力側は、この時とばかりに、国民生活への警察の介入、マイナンバーカードの早急な普及、「国難」という大義名分を掲げて、言論表現の自由を一層狭めることを目論んでいることは間違いあるまい。

だが、新聞もテレビも権力側の危険な動きに、抵抗する意志すら見えない。

質問を制止する官邸になぜ各社は抗議しないのか

中でも、権力と一番近い政治部の記者たちが、ウオッチドッグの役割を果たさないどころか、捨て去ってしまっているのである。

8月6日の首相会見で“事件”が起きた。安倍首相が49日ぶりに広島で会見を開いたのだが、わずか20分程度で、内容はこれ以上ないというほど空疎だった。頬はこけ生気がなく、持病の悪化を思わせた。

司会役の広島市職員が15分を過ぎたところで会見を「強制終了」させようとした時、看過できないことが起きたのである。朝日新聞記者が、「総理、まだ質問があります」と挙げた手を、官邸報道室の職員が妨害するため、記者の腕をつかんだのである。

これまでも、内閣記者会から事前に出させた予定調和の質問にだけ答え、他の記者の質問を無視して会見を打ち切ることは何度もあった。

だが、暴力的に記者からの質問を打ち切ることはなかった(菅官房長官が会見で、東京新聞の望月衣塑子記者の質問を遮るのは、私には暴力的だと思えるが)。民主主義を標榜している国のリーダーが、自ら民主主義を踏みにじったのである。