上場企業の内部留保は約460兆、うち約200兆を現預金のまま貯め込む

このようにして日本の上場企業のお金の多くは内部留保として滞留し、日本経済と日本株が停滞する大きな原因となってきたのです。

本来、企業が稼いだお金は株主に還元されるべきものです。株主は本来そうしたリターンを求めて投資をしています。しかし、日本の上場企業は稼いだお金を平均して30%程度しか配当していません。自社株取得による株主還元を加味しても、残りの50%近くは内部留保にしてきました。

内部留保は必ずしも悪いものではありません。株主に配当しなくても、将来的に利益を拡大するための投資に使われるのであれば、それは株主の利益にもかなうものです。お金を企業の成長のための投資に回せば、企業が成長するだけでなく、お金は社会を循環することになり、経済全体の成長にもつながります。

そして、投資によって会社の利益が上がればさらに雇用を増やすことができ、従業員の待遇もより良くできます。そして、利益が増えれば配当も増やせて株価も上昇し、さらなる成長投資ができる……という好循環が生まれるのです。

しかし、成長のための投資案件が無ければ、稼いだ利益を内部留保する理由はありません。稼いだ利益は貯め込まず、株主に配当や自己株取得を通じて還元するべきです。そうすることで、株主は一定のリターンを得たり、それによって得た資金でまた新たな投資をすることができ、お金がどんどん動き始めます。

いずれにしても、企業が稼いだお金をきちんと成長投資か株主還元へと回せば、社会の中をお金が巡り、好循環が生まれるのです。株価の上昇につながり、積立金の一部を株式に回している年金なども潤います。また税収も上がり、国の財政再建にも役立ちます。日本経済を活性化させ、年金や財政の問題などの解決にもつながるのです。

ところが、上場企業は約460兆円にまでつみあがった内部留保のうち、約200兆円を現預金のまま貯め込んでしまっています。

投資家の村上世彰氏
写真提供=KADOKAWA
投資家の村上世彰氏

私が官僚をやめ、自らプレーヤーとなることを決めた理由

官僚時代にこうした問題に気づいた私は、コーポレート・ガバナンスの浸透こそが日本経済を復活させる切り札になると確信し、コーポレート・ガバナンスの研究と、それを上場企業に浸透させるべく働きかけることに心血を注いできました。当初は、一官僚の立場で一生懸命に訴え行動を起こそうとしましたが、事態を打開することができませんでした。

官僚という立場からコーポレート・ガバナンスを浸透させることに限界を感じた私は、官僚を辞めて、自らプレーヤーとなることを決めました。投資家・株主として行動を起こすことにしたのです。そうして作ったファンドが、いわゆる村上ファンドです。私のファンドには立ち上げ当初から理念に賛同してくれた方が多くいて、38億円もの資金を集めてスタートすることができ、最終的には5000億円程度の規模にすることができました。

私は様々な企業の株を取得して株主として働きかけ、敵対的TOB(経営陣の賛同が得られないまま行われる公開買い付け)やプロキシーファイト(株主総会における委任状の争奪戦)などの形で闘い、主張を訴え続けました。

手掛けた数々の案件では、必ずしも当初のシナリオ通りに事が運ぶことばかりではありませんでしたが、結果的にほとんどの企業で遊休資産の活用や株主還元の動きが起こりました。その結果、株価が大幅に上昇するケースに恵まれ、ファンドとしても大きな成果を得ることができました。

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