真面目にやっている学校がバカを見てしまう

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】そのときのことはよく覚えています。オーラルコミュニケーションが授業になったことで、英会話学校に行く高校生が爆発的に増えました。そこで大きく授業が変わったわけではないのですか?

【清水】実質はほとんど変わっていません。たしかに教科書の内容はかなり変わりましたが、多くの先生はその部分を意図的に省略して、従来どおりの読み書き英語に時間を回していました。

【三宅】それは、オーラルコミュニケーションが大学受験に関係がないから。

【清水】はい。それが現場の実情です。なぜなら文科省から言われたことを真面目にやっている学校がバカを見てしまうからです。

もちろん英語の先生たちは、子どもたちに「使える英語」「話す英語」を学んでほしいと思っています。しかし、当の子どもたちや保護者からすれば、「目先の受験のほうが大事なんですけど」という話になります。

【三宅】やはり入試問題が変わらないと高校の授業は変わらない?

【清水】変わりません。その後も科目の名称をコロコロ変えるだけで、中身は基本的に変わりませんでした。前回変わったのは2018年でしたが、変わったのは「コミュニケーション英語」を「英語コミュニケーション」と呼ぶようにしただけです。先生たちはみんなあきれていました。

2024年にむけて大学入試改革はどうなるか

【三宅】その大学入試改革ですが、今後は4技能(話す、書く、聴く、読む)を評価することを目的に民間テストを導入することを決定して動いていましたが、実現の壁も高く、一時期頓挫し、いまは2024年を新たなターゲットにして動いています。

【清水】大学入試が変わるとなると、指導要領など関係なく、高校も中学も勝手に変わります。2017年、大学入試に民間の英語テストが導入されることが発表されると、授業のあり方を大幅に変えた学校や先生たちが続出しました。

ではなぜ頓挫したかというと、やはり教育現場の実態を知らずに安易に民間に丸投げしたことでしょう。

【三宅】何十万人もの受験生のスピーキングテストを民間機関に委ねて、正確に、そしてフェアに一人ひとりの能力を見定めることはやはり難しいのでしょうか。

【清水】難しいですね。3年前にある高校で1年だけ教壇に立ったことがあります。その学校には外国語科というコースがあり、いろんな科目を少人数で選択できます。そのとき、あるクラスでGTEC(ジーテック=Global Test of English Communication。ベネッセコーポレーションが実施している英語4技能検定)のテストを受験することになりました。

その試験監督をしたときに思ったことなのですが、というより生徒が一番感じたことだと思うのですが、いくらヘッドセットをしていても、他の受験生の言葉が丸聴こえなのです。

【三宅】なるほど。ヘッドセットで聞こえてきたものに対して各自が英語で返答するわけですね。

【清水】はい。すると当然、英語の得意な子はパッと返答できますから、自信がない子はその子がどんなことを言うか、全神経を耳に集中していればいい(笑)。それを見ていて、このようなやり方では絶対に公平な判断はできないと思いました。

4技能を評価すること自体は歓迎すべきですが、それなら国が責任を持って統一的な試験機関をつくって実施しないと、いろいろなところで不公平が続出すると思います。そのあたり、2024年に向けて、文科省がどのような知恵を絞ってくるのかお手並み拝見といったところでしょうか。