ヤマを張ると気持ちに余裕が出る
私は興奮した。つくづくいいものを目のあたりにした。海外出張させてくれた編集長に感謝した。
単に一か八かのギャンブルが見事に成功したのではない。窮地に陥ったときの腹の括り方がすばらしい。「もしパスを投げてきたら、絶対に得点は許さない」というセリフにしびれてしまった。
全米チャンピオンチームを引き合いに出しておいて、自分のことを振り返るのはおこがましいのだが、似たような経験はないこともない。
大学入試で数学をチョイスした。全部で5問出る。分野別で、私は「確率」が苦手だったけれど、他の数列や行列などは案外イケた。それでカウボーイズシステムを取ったのである(当時はまだ知らなかったけど)。
私は「確率」の勉強を完全放棄した。もし「確率」が出題されたらお手上げ。そうでなければ満点。つまりヤマを張ったのだった。
こういうのはただの怠け者の発想で、ちゃんと勉強しておけば窮地に陥らなくて済むのである。ちなみに確率は出なかったが、その大学には落ちた。
土壇場ということとは少し違うものの、腹の括り方は日常生活にも応用できる。
私には反抗期真っ最中の娘がいる。こういう娘は父親の小言を極端に嫌う。しかし生活態度のアラが見えてしまうのも親だ。そこで、「これだけは許さない。あとのことはすべて大目に見る」と決めた。具体的記述は避けますけど。こう腹を括ると、気持ちに余裕が生まれてくるのだった。
腹を括れば行動からブレが消える。私はスポーツの取材をするとき、「この人はどのくらい腹を括っているか」をいつも考えるようになった。当然、それが露わになるような問いを放つ。スーパーボウル取材の最大の恩恵だと思っている。
(写真=AFLO、共同通信イメージズ)